笑えない日韓ジョーク 小出 浩樹

西日本新聞 オピニオン面 小出 浩樹

 新年。韓国の友人と電話であいさつを交わした。

 昨年来、こんなジョークを聞くと彼は言う。豊臣秀吉の朝鮮出兵「文禄・慶長の役」(1592~98年)で犠牲になった兵士の亡霊が「俺も、俺も」と名乗りを上げている、と。

 日本に対する韓国側の終わらない謝罪と賠償の要求に絡めたネタである。けれども日韓関係を大事に思う人にとっては、笑えない冗談ではないか。彼と私もそうである。

 なぜ今更、秀吉時代の亡霊なのか。いわゆる元徴用工に賠償するよう日本企業に命じた韓国の最高裁判決(2018年10月)の論理からだ。

 判決によると、日本に動員されたとする原告4人が求めたのは「未払い賃金や補償金」ではなく「慰謝料」である。つまり精神的苦痛に対する賠償金だ。既に鬼籍に入った原告の訴えも認める一方、時効による請求権消滅という日本側の訴えは退けた。ならば心を痛める兵士の末裔(まつえい)にも権利はあろう、と。

 また判決は、植民地支配そのものの違法性を根拠にしたのだから、その被害者であり、末裔にもなる大多数の韓国民が提訴できる-ジョークはそのパロディーである。

 文在寅(ムンジェイン)大統領が先週の年頭記者会見で、日韓関係悪化の発端となった元徴用工問題について、解決案を示すよう日本に求めた。

 文氏に問いたい。最高裁判決を受けた日本側の協議要請を無視し続けたのは誰か。「被害者の気持ちが大事」と言うが、元慰安婦の完全救済を放棄し、日韓合意で設立した財団を解散したのは誰か。

 韓国政府は過去に2度、元徴用工に賠償した。日韓請求権協定(1965年)で得た経済協力金などが原資だ。日本企業も供託金を出した。必要ならば、日本の直接補償を当時断った韓国政府の責任で解決するのがルールだ。

 そもそも、判決によれば原告4人は、徴用令が朝鮮半島で適用される44年9月前の41~43年に、募集や官斡旋(あっせん)に応じて渡日した。つまり徴用はされていない。

 最も重要なのは、同協定はサンフランシスコ講和体制を前提に結ばれたことだ。それを翻せるとすれば、東京裁判の正当性など戦後の国際秩序を問う勢力が出てきてもおかしくはない。

 冒頭の友人は、文大統領の誕生につながった朴槿恵(パククネ)前大統領の弾劾デモに参加していた。しかし文政権で経済は悪化し、政権絡みの腐敗も表面化している。「どうしたものですか」。電話越しに声が届く。2020年。彼と私のささやかな交流はこうして幕を開けた。 (論説委員)

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