聞き書き「一歩も退かんど」(66) 「トカゲの尻尾切り」 志布志事件冤罪被害者 川畑幸夫さん

西日本新聞 オピニオン面 鶴丸 哲雄

 2007年夏、私は心苦しい思いでいました。踏み字国家賠償訴訟で鹿児島県から支払われた68万円(うち8万円は利息)の出どころが県民の税金であるのに納得いかなかったのです。踏み字をさせたH警部補に払わせるべきですよね。

 野平康博弁護士にお願いして、H警部補本人に払わせる「求償権」の行使を県に求めましたが、県の回答は「検討します」。いつもながらのお役所仕事です。

 そんな中、びっくりするニュースが飛び込んできました。8月24日、H警部補が「一身上の都合」として、県警に31日付の辞職願を提出し、県警が受理したのです。即座にこんな言葉が浮かびました。

 トカゲの尻尾切り-。

 県警と地検は責任の全てをH警部補におっかぶせて事件の幕引きを図る狙いでしょう。H警部補も、警察官を辞めるという大きな代償を払うことにより、特別公務員暴行陵虐罪による起訴を逃れたい意図があるのでは。もし起訴された場合も、辞職は情状酌量の大きな要素になります。

 それ以上に納得いかないのが、なぜ懲戒免職じゃないのですか。自己都合の辞職なら、退職金が丸々受け取れます。これでは志布志署のK元署長が辞めた時と同じ。「逃げ得」です。

 28日には県警が記者会見で、起訴逃れや幕引きの意図を否定。H警部補が「国賠訴訟の原因となったことなど、責任を感じており、けじめをつけたい」と述べたことを明かしました。

 ですが、これを「けじめ」と呼ぶのでしょうか。まずは被害者の前に駆けつけて、「すみませんでした」と頭を下げることが、一番のけじめでしょう。

 私はただちに動きました。協力してくれたのは、屋久島の行政書士仙田辰次さん。公金の不正利用を追及している仙田さんは、志布志事件でK元署長の退職金返還を求める運動を続けていました。「H警部補の件も、一緒にやりませんか」と声を掛けていただいたのです。助かりました。

 9月3日、私と仙田さんは県監査委員に対し、H警部補への退職金支出差し止めを求める住民監査請求をしました。記者会見で私は「直接謝罪もなく、退職金を丸々受け取るのは絶対に許せない。これでは同じような事件がまた起きる」と強調しました。

 県の条例では、退職金は退職後1カ月以内に支給されます。こうなったからには、福岡高検の一刻も早い起訴を願うばかりです。 (聞き手 鶴丸哲雄)

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