トランプ氏弾劾 「政争劇」で終わらせるな

西日本新聞 オピニオン面

 国益を損ないかねない為政者の資質を問う制度である。トランプ米大統領ウクライナ疑惑を巡り、米議会上院で弾劾裁判が始まった。200年を超す米国史上、大統領の弾劾裁判は3人目で、超大国の指導者としての職責と国家の信用が問われる重大な事態だ。

 トランプ氏の弁護団は訴追内容に全面的に反論する書面を提出し、速やかな棄却を求めた。トランプ氏本人も裁判を早期終結させたい意向を示している。

 ただ、これだけの党派対立と混乱を国政に招いた責任をまず直視すべきだ。潔白を主張するのであれば、今後本格化する審理に誠実な態度で臨み、しっかり説明責任を果たすことこそ本来の姿ではないか。

 下院の弾劾訴追決議(起訴状に相当)によると、トランプ氏は11月の大統領選を有利にするため、争う可能性がある野党民主党のバイデン前副大統領のスキャンダル探しをウクライナ政府に要求した。その見返りにロシアとの紛争を抱えるウクライナが望む軍事支援の継続などを約束し、圧力をかけたという。

 事実だとすれば「権力の乱用」であり「外交の私物化」以外の何物でもない。たとえ多数決で無罪になったとしても、米国の同盟国である日本にとっても看過できない行為である。

 加えて、疑惑を調査する議会の活動を妨害した、とも訴追されている。政府高官らに下院での証言拒否を指示し、政府機関も関連文書の提出に応じなかった。そうした環境下でも高官らが下院の公聴会に出席し、トランプ氏の「不適切」な行為で外交が不正にゆがめられたと証言した意味は大きい。

 それでも、民主党が主導権を握る下院とは異なり、上院は与党共和党が多数を占めるため、3分の2の賛成が必要な有罪・罷免の可能性は低い。共和党支持層でのトランプ氏支持率は極めて高く、自身の選挙を考える議員がトランプ氏から離反するのは難しいとみられている。

 トランプ氏は20日、任期4年の最終年に入った。次期大統領選で勝利を目指す共和党は弾劾裁判の早期幕引きを目指し、民主党は逆に長期化させ、トランプ氏の支持者離反を誘い、政権奪還につなげたい考えだ。

 こうした両党の思惑から弾劾裁判を単なる政争劇に終わらせれば米議会はその責任を放棄したことになる。新たな証人の採用など裁判の展開によっては、国民全体に政治や大統領のあり方について深く考える材料を提供できるはずだ。

 議会が大統領をチェックする弾劾裁判制度の趣旨と、国際社会への影響も熟慮し、充実した審理を求めたい。

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