身近な小川の「氾濫」予測 滋賀県「地先の安全度マップ」

西日本新聞 くらし面 長谷川 彰

 「これまでに経験したことのないような大雨」(気象庁)が頻発し、昨年は大河の堤防決壊などによる浸水被害がクローズアップされた。ただ、見逃せないのは豪雨時に身近な中小河川や排水路などで起こる内水氾濫。そこに着目して地域の浸水リスクを知らせる詳細な「地先の安全度マップ」を、6年前に整えたのが滋賀県だ。その先進性が今改めて注目される。

 わが国最大の湖、琵琶湖が広がる滋賀県。四方の山々から119本の1級河川が流れ込む一方、流れ出る河川は瀬田川のみ。過去には水害に悩まされ、洪水制御のため河川整備が進められてきた歴史がある。

 ただ、その整備事業もなお途上。仮に完成したとしても想定を上回る大雨が降れば洪水は避けられない-との認識に立ち、前知事の嘉田由紀子氏が重点政策の一つとして取り組んだのが「流域治水」だ。

 ダムなどハード面に頼り過ぎず、川を安全に「ながす」、降った雨を「ためる」、地域づくりで「そなえる」、被害を最小限に「とどめる」を四つの柱とする総合対策。地先の安全度マップは、そうした対策立案のための基礎となる。

 マップは、大きな川だけではなく、小さな川や下水道、農業用排水路などがあふれる内水氾濫まで想定し、それぞれの地域でどれほどの浸水が予測されるのかを示しているのが特徴。

 具体的には(1)10年に1度程度の大雨(1時間雨量最大50ミリ)(2)100年に1度の大雨(同109ミリ)(3)200年に1度の大雨(同131ミリ)の際の想定浸水深を、最大5メートルまで段階的に色分けして表示。50センチで床上浸水し、3メートルで1階が水没する恐れがあることなどを伝えている。

 滋賀県の公式サイト上で公開されているマップは、住宅が1軒ごとに識別できる程度まで拡大できる。三つの大雨想定それぞれで表示を切り替えられるほか、床上浸水や家屋水没の起こりやすさも10年、30年、50年、100年、200年に1度の大雨ごとに表示できる。

 これらのリスクを割り出す際、500年、1000年に1度程度の大雨の場合についても検討し、200年の設定で対処できると判断したという。また、地域ごとに複数の川が同時氾濫したケースも想定して分析するなど、当時の水防法の規定より踏み込んでいた。

 県流域治水対策室の中川豊彦室長補佐は、マップについて「市や町がハザードマップを作成するためだけでなく、住民一人一人が自分の命を守る対策を考えるための基礎情報」と説明。大きな川が氾濫する前に、身近な川や排水路があふれる恐れもある。「自宅が浸水するかどうかだけではなく、避難する際、危険な場所や、より安全な場所はどこかを知るのにも役立ててもらうのが狙い」と話す。

 現在、200年に1度の大雨で浸水深が3メートル以上と予測される約50地域を重点地区と位置づけ、出前講座などを通じて周知に努めているという。

 こうした取り組みは2014年、「災害には上限がなく、河川整備のみに頼る治水には限界がある」ことを前提に、「どのような洪水にあっても県民の命を守る」として制定された流域治水条例に基づく。浸水の危険度が高い地域では建築制限も行うといった、思い切った施策も含まれる。

 国も治水対策のありかたについて15年、「施設の能力には限界があり、施設では防ぎきれない大洪水は必ず発生するものとして意識を変革し、社会全体で備える必要がある」と方針を転換した。いち早い実践例と言える滋賀県の条例について次回、要点を紹介する。 (特別編集委員・長谷川彰)

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