聞き書き「一歩も退かんど」(68)謝れ償え繰り返すな 志布志事件冤罪被害者 川畑幸夫さん

西日本新聞 オピニオン面 鶴丸 哲雄

 H元警部補が在宅起訴され退職金が不支給となった2007年9月。知り合いの鹿児島県警の刑事から電話がありました。

 「幸夫さん、Hへのカンパが始まったよ。もちろんおいは断ったがな」

 H元警部補の辞職が発表された頃から県警内部でカンパが呼び掛けられ、1口数千円から2万円程度とか。個人の意思でお金を出すことに私がどうこう言えませんが、カンパなら志布志事件の被害者のためにこそすべきではないですか。

 それにしてもなぜこんな動きが、と考えると答えは一つです。県警が、志布志事件や踏み字を組織的に起こしたと認識しているからです。組織で強引な捜査をしたのに、1人だけトカゲの尻尾切りではすまないから、ここは皆で一肌脱ごうとなったのでしょう。つくづく変な組織です。社会常識から外れています。

 そして10月19日、志布志事件の仲間が新たな闘いをスタートさせました。無罪が確定した12人と、公判中に死亡し公訴棄却となった山中鶴雄さんの遺族5人が違法捜査で精神的、肉体的苦痛を受けたとして、県と国に対し、元被告1人につき2200万円(計2億8600万円)を求める国家賠償請求訴訟を鹿児島地裁に起こしたのです。スローガンはこうです。

 「謝れ 償え 繰り返すな」

 原告団長に就いたのは藤山忠(すなお)さん。はきはきしゃべり、正しいと思ったことをずばずば言える。私はこの男なら皆をまとめられるだろうと思いました。その藤山さんは記者会見でこう表明しました。

 「この訴訟の目的は真相究明にあります。志布志事件は単なる冤罪(えんざい)ではありません。警察と検察がつくり上げた犯罪です」

 その通り。県警は嫌疑がないのに16人もの無実の人を逮捕。地検は証拠が乏しいのに見込みで起訴し、いたずらに訴訟を長引かせました。藤山団長は「県も国も時間稼ぎをせず、解決の努力をしてほしい」と強く訴えました。

 ところで、地裁には警戒のためか私服警官の一群がいて、私の見知った顔が。取調室でT警部補の補助官を務めた良心的な若い刑事でした。私は彼のショルダーバッグのひもをぐいぐい引っ張り、元被告たちの前に連れてきました。「警察がむちゃな捜査をすっから、これだけ多くの人が大変なことになったど」。被害者の刺すような視線を彼はどう受け止めたでしょう。 (聞き手 鶴丸哲雄)

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