こんな時だけ積極広報 井上 裕之

西日本新聞 オピニオン面 井上 裕之

 悪質な犯罪を容認するつもりは全くない。最初に断っておく。その上で問いたい。今回の騒動で100%責めを負うのは片方で、もう片方には何ら姿勢をただすべき点はない、と言えるのか。

 日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告の海外逃亡劇と、それに慌てた東京地検の異例の対応ぶりのことだ。

 前者の逃亡は無論、看過し難い。けれども後者の姿にもどこか違和感を覚える。地検は自身のサイトで捜査の正当性を主張する見解を日本語と英語で掲載するなど、今回ばかりは「広報」に躍起だ。

 ゴーン事件は海外でも注目され、日本の「人質司法」への批判も呼び起こしている。そうなると、国内外に向けて反論を展開し、検察として説明責任を果たす必要がある、という立場は分かる。

 しかし、日頃はどうか。検察は情報開示に後ろ向きな官庁の筆頭格だ。通常は「捜査中」を盾に詳細を明かさず、報道陣をけむに巻く。事件の経緯や証拠は起訴後に法廷で示すというのが建前だ。

 ところが、検察の存在感を示す事件の摘発は大々的に発表し、不起訴の時は理由を説明しないなど、いわば“ご都合主義”も透ける。

 今回の見解では、捜査は適正だったとし(1)被告には高度の逃亡の恐れがあった(2)妻も事件に関係する(3)罪証隠滅行為も現にあった-などとしている。暗に「保釈を認めた裁判所が悪い」というニュアンスだ。また、被告の妻の逮捕状を取った際には、ここぞとばかり直ちに発表した。

 本来、どんな事件でも情報は極力開示すべきだ。検察の捜査権限は国民から負託されたものだ。検察の都合やメンツで“情報操作”が行われてはなるまい。今回を機に検察は広報の重要性を再認識し、姿勢を改めてはどうか。そうするなら歓迎したい。

 「99%」。ゴーン被告はこの数字を問題視する。日本の刑事裁判の有罪率だ。確かに高い。ただし、近年の統計で見ると、有罪確定者の8割は罰金刑、懲役刑でも6割は執行猶予付き。無罪確定者も人数で見ると、年間80~130人を数える。

 日産と検察の司法取引を端緒とした事件は企業の内紛の様相を帯び、どこかすっきりしない。裁判所が勾留日数を制限し、最終的に保釈を認めたのは妥当とする声も多い。

 密出国は別にして、一連の起訴内容が100%有罪と決まっているわけではない。ゴーン被告に改めて言いたい。潔白を主張したいなら日本に戻り、堂々と法廷に立つべきだ。裁判官の目が節穴とは限らない。 (特別論説委員)

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