[ひと・仕事の内そと]日本アフガン医療サービス顧問医師 中村哲さん イスラム社会に反欧米感

西日本新聞

 中東で、世界を揺るがす湾岸戦争がぼっ発したときイスラム教国のパキスタンの辺境の町、ペシャワルから一時帰国中の福岡市出身の医師、中村哲さん(44)=福岡県大牟田市三池=は「やっぱり始まったか」とつぶやいた。

 「やっぱり」という言葉に思い当たるふしがあったのだ。昨年5月ごろからイスラム急進派の不穏な動きが表面化。内戦を避けパキスタン全土に流れ込んだ約350万人に上るアフガン難民救援のため、ペシャワルに配置された欧米系の民間救援団体は百を数えるが、これらの団体を狙った急進派グループの襲撃、略奪事件が続発した。

 「難民女性に読み書きを教えて女性の地位向上を図るというような欧米救援団体の活動がイスラム住民の反感を買った。自分たちの習慣を無視しているというわけです」

 生活習慣を厳しく律したイスラム教徒の宗教観は日本人にはなかなか理解できないが、こうした急進派の過激な動きの背景には、イスラム難民を家畜同然視する欧米人に対する強い反発もあったようだ。

 「かつて十字軍遠征を体験したイスラム住民にはキリスト教国の欧米に対する抜き難い対抗意識があるが、最近のイスラム急進派の動きと『アラブの正義』を旗印にクウェートに攻め込み欧米と戦争を始めたイラクのフセイン大統領とは根っこで通じるものを感じる」

 昨年暮れ、中村さんはペシャワルのイスラム住民に湾岸危機の感想を聞いてみると、住民の多くは口をそろえてこう言った。「クウェートに侵攻したイラクも悪いが、それにもまして聖地メッカのあるサウジの前線に、けがれた女性の兵士を立てた米国はもっと悪い」

 日本や米国ならば「女性べっ視」と猛烈な批判が出そうな言葉だが、これがイスラム的発想である。長年イスラム住民と暮らしてきた中村さんは「イスラムと非イスラムの宗教的・民族的対立の根深さを日本人はもっと認識してほしい」と訴える。

 九大医学部を卒業し、1984年からペシャワルで医療奉仕に従事する。78年、福岡の山岳会に同行してパキスタンの高峰に登ったのがこの仕事を選ぶきっかけとなった。

 このとき、住民を診察し、既に先進国ではほとんどいなくなったハンセン病患者が大勢いて、満足な医療施設もない実態に仰天。「言いようのない不平等と不条理」を感じ、辺境の地での診療活動に生涯をささげる決心をしたのだ。

 今回の一時帰国は、昨年5月にペシャワルから帰国した妻と3人の子供たちとの再会と、診療者養成用の顕微鏡を募る目的があった。新聞を通じて呼びかけたところ、九州各地の医療機関から合計12台の双眼顕微鏡の寄贈申し出があった。

 これも、会員組織「ペシャワール会」(本部・福岡市)の資金援助で設立した「日本アフガン医療サービス」の顧問医師として、アフガン難民の診療や診療者養成を進める中村さんの献身的な努力に対する賛同の表れと言えよう。

 だが、予想を上回る反響に驚きながらも、中村さんの気持ちは晴れない。

 「日本政府が多国籍軍へ90億ドルの追加財政支援を決めたが、これは参戦と同じこと。これで日本を尊敬すべき国とみてきたイスラム社会の対日感情は急速に悪化するでしょう」

 まもなくペシャワルに戻る中村さん。その胸の内には「中立平和」の立場から逸脱しつつある日本への不満と不安が大きく膨らんでいる。(原田博治記者)

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