「平和とは観念ではなく、実態である」一隅を照らした医師・中村哲さんが残した言葉たちに触れる

西日本新聞

 長年にわたりアフガニスタンとパキスタンで人々に寄り添い、その命を助けてきた中村哲医師は、多くの言葉を著書に残してきた。25日、福岡市で開かれたお別れ会で朗読された、中村さんの思いを紹介する。

<天、共に在り>はじめに

 アフガニスタンやパキスタンに縁もゆかりもなかった自分が、現地に吸い寄せられるように近づいていったのは、決して単なる偶然ではなかった。しかし、よく誤解されるように、強固な信念や高邁な思想があったわけではない。人はしばしば自己を語るが、赴任までの経緯を思うとき、生まれ落ちてからの全ての出会い――人であれ、事件であれ、時代であれ――が、自分の意識や意志を超えて関わっていることを思わずにはおれない。

<医者、用水路を拓く>

 私たちに確乎(かっこ)とした援助哲学があるわけではないが、唯一の譲れぬ一線は、「現地の人々の立場に立ち、現地の文化や価値観を尊重し、現地のために働くこと」である。

<医者 井戸を掘る>

 私たちの役得は、復活した村々の人々と喜びを共に出来ることである。そして、それは何にも代えがたい尊いものである。

<天、共に在り> 私たちは帰って来ます

 2001年9月11日ニューヨーク同時多発テロ事件を受け、13日中村医師をはじめすべての日本人ワーカーがジャララバードからペシャワールへ退避するとき――

 私は集まった職員たちに手短に事情を説明した。

 「諸君、この一年、君たちの協力で、二十数万名の人々が村を捨てずに助かり、命をつなぎえたことを感謝します。すでにお聞きのように、報復の空爆で、この町も危険にさらされています。しかし、私たちは帰ってきます。PMS が諸君を見捨てることはないでしょう。死を恐れてはなりません。しかし、私たちの死は他の人々のために意味を持つべきです。緊急時が去ったあかつきには、また共に汗を流して働きましょう。この一週間は休暇とし、家族退避の備えをして下さい。九月二十三日に作業を再開します。プロジェクトに絶対に変更はありません」

 長老らしき風貌の職員、タラフダール氏が立ち上がり、感謝を述べた。

 「皆さん、世界には二種類の人間があるだけです。無欲に他人を思う人、そして己の利益を図るのに心がくもった人です。PMS はいずれか、お分かりでしょう。私たちはあなたたち日本人と日本を永久に忘れません」

 これはすでに決別の辞であった。

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