男にも育休夜露死苦 岩田 直仁

西日本新聞 オピニオン面 岩田 直仁

<短夜や乳(ち)ぜり啼(な)く児を須可捨焉乎>

 寝苦しい夏の夜、乳を求めて赤ちゃんが泣く。ああ、しんどい。いっそ、捨ててしまおうか-。近代名句の一つで、本来は下の句の漢字5字に「すてっちまをか」とルビを振る。暴走族が廃工場の壁に書く当て字みたいだが、実は漢文の素養が下地にある。

 大正から昭和にかけ、俳誌「ホトトギス」で活躍した福岡の俳人、竹下しづの女の作。同じ福岡の同世代、杉田久女と並んで女性俳人の先駆けと評される人だ。

 師範学校を卒業し、小学校などで教えた。夫の急逝後、図書館に職場を変え、5人の子を育て上げた。<汗臭き鈍(のろ)の男の群に伍(ご)す>。仕事もできないくせに、女を見下す男に負けられるか。男社会で働くシングルマザーの気概と悔しさが伝わってくる。

 2句とも80年以上前の作だが、今も共感を持って読む女性は少なくないだろう。

 働く女性は増えたが、企業社会も政治の世界も男性中心には変わりない。共働きとなれば、家事と育児の負担が女性に重くのしかかる。女性の育休取得率は80%を超えるが、男性は6%程度。おまけに、多くは「お試し育休」と揶揄(やゆ)されるほど期間が短い。

 小泉進次郎環境相に男児が生まれた。約2週間の「育児休業」を取るという。議員に育休制度はなく、閣僚の重責もある。決断には賛否があるが、現状に一石を投じる行為と捉えたい。ただし、大切なのはもちろん、投げた石から波紋を国中に広げる政治活動に本気で取り組むことだ。

 欧州には、一定の育休期間を男性に割り当てるパパ・クオータ制を導入した国がある。根強い性別役割意識を変えるには、初等教育からジェンダー(社会的性別)の問い直しに力を入れてほしい。

 働く母親の「保育園落ちた日本死ね」という怒声を思い出しながら、私もしづの女をまねて一句。<男にも育休夜露死苦(よろしく)小泉さん>。すべての国会議員に向けたメッセージだが、伝わるかなぁ。

 衆院で夫婦別姓制度の導入を訴える野党議員に、女性議員から「だったら結婚しなくていい」とやじが飛んだという。家族の形と男女の役割を巡る古い価値観が国会にはびこっているようで…、前途多難ですよ、小泉さん。

 ちなみに「須可捨焉乎」は「捨てられようか、いやできない」という反語表現だろう。しづの女は子をいとおしむ句も残している。<子を負ふて肩のかろさや天の川>。こんな気持ちで、誰もが子育てできる社会に早くなるといいな。 (論説委員)

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