カジノと経済とモラル

西日本新聞 オピニオン面 永田 健

 私はあまり堅物とはいえない性質なので、ギャンブルが嫌いではない。パチンコや競輪、競艇に行く人の気持ちはよく分かる。

 基本的にバクチであるから、もちろん褒められたことではない。しかし「法を守る」「家族を泣かせない」の大前提を守るならば、ギャンブルは大人の気晴らしとして許容範囲だと考える。人間、それほど品行方正である必要はない。

 だから例えばの話、自分の住む町にパチンコ店があったとしても、特に嫌だとは思わないし、時には自分でパチンコを打ちに行くかもしれない。

 しかし、もし自分の町の町長が「地域活性化のためにパチンコ店を大挙誘致する」などと言い出したら、私はこう言うだろう。

 「もっとましなことを考えろ」

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 安倍政権は、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)整備を「日本観光の起爆剤」と位置付け、目玉政策として推進しようとしている。実現すれば日本でもカジノ解禁となる。

 この政策を巡り、旗振り役の一人だった衆院議員が東京地検に逮捕、起訴された。日本でのIR事業参入を目指していた中国企業から総額700万円以上を受け取った収賄容疑が持たれている。贈賄側関係者は他の国会議員5人にも現金を渡したと供述。この中には受領を認めた議員もいる。

 「だから言わんこっちゃない」というのが大方の感想ではなかろうか。

 そもそもカジノ解禁に関しては、ギャンブル依存症患者の増加や反社会的勢力の関与などに加え、参入を巡って世界中から怪しげな業者が日本政界に群がってくるのでは、と不安視されていた。そうした懸念が早くも裏付けられた格好だ。

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 今回の事件はカジノ導入検討の段階で起きたが、カジノがオープンすれば、それが新たな政治腐敗の舞台になる可能性もある。

 中国研究者から聞いたところでは、中国で近年流行した汚職の手口とはこんなやり方だとされる。

 業者と政治家(中国共産党の地方幹部など)がマカオのカジノに行く。カジノで業者がチップを大量に買い、それを政治家に渡す。政治家はそのチップでギャンブルせず、そのまま換金して自分のものにする。

 この手口なら、後でカネの流れを追求されても、業者は「カジノで負けました」、政治家は「カジノで勝ちました」と言い逃れできる。何とうまいやり方だ、と感心しそうになったが、政府はこうしたマネーロンダリング(資金洗浄)の防止策まできちんと考えた上で、カジノ導入を進めようとしているのだろうか。

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 カジノ遊びなどしょせん「褒められたものではない」と自覚しながらやるものだ。それをまるで良いことかのように、「成長戦略の柱」と大書した錦の御旗を立てて推進しようとするのは、無理筋ではないか。

 経済とは「必要」を出発点にして「市民の幸福」を実現する営みであってほしい。「欲望」をベースにした経済が主流になれば、社会はどんどんゆがんでいく。それがギャンブルと経済を巡る生活者の常識ではなかろうか。「グローバルな競争の時代に、そんなモラルは古くさい」と言われるかもしれないが。

 (特別論説委員・永田健)

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