「もはや唐津は古里です」アニメ聖地がつないだ縁

西日本新聞 佐賀版 津留 恒星

 廊下の壁には田中角栄元首相のサイン色紙。そばには秋篠宮さまが来館した際の写真が飾られている。1953年創業の「水野旅館」=佐賀県唐津市。厳かな雰囲気が漂うが、図書室の棚には、アニメキャラクターの缶バッジやストラップが並ぶ。

 大きな瞳が魅力的なショートカットの女の子。佐賀を舞台としたアニメ「ゾンビランドサガ」のアイドルグループのメンバー、水野愛だ。

 「水野がかぶっているだけなんですが…」と旅館支配人の立花充さん(35)。2018年にアニメが放送されると、水野愛と同じ名の旅館があるとインターネット上で話題となり、昨夏から全国のファンが訪れるように。館内の水野愛グッズはファンから贈られたものだ。

 「どーも、はじめまして」。昨年12月、20代から40代の男女5人が旅館に集まり、自己紹介して食事を堪能。ネット上でつながったファンが顔を合わせて交流する「オフ会」だ。神奈川県の40代男性は「唐津に来たのは11回目。今回は水野旅館の料理を食べるために来ました」と話した。

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 アニメゆかりの地を訪れる「聖地巡礼」。唐津城や市歴史民俗資料館などがゾンサガや「ユーリ!!! on ICE」(16年放送)の舞台となり、ファンが「聖地」を訪問。近ごろは、アニメに登場した場所以外にも足を延ばすようになっているという。

 JR唐津駅近くにあるピザ店「ピッツェリア ミラノ」でもオフ会が開かれる。「うちは聖地ではないんですが」と店長の牧山健さん(48)。ファンの間で「ピザがうまい」という口コミが広まった。もともとピザ持ち帰りの店だが、昨年10月以降は店内飲食の売り上げが持ち帰りを上回っているという。

 受け入れ側のおもてなしも進む。同市中町のステーキ店「キャラバン」はファン専用の休憩スペースを設け、無償で荷物の預かりや自転車の貸し出しも行う。オーナーシェフの河上彰範さん(42)は「ここに来るファンはみんな『ただいま』って唐津に帰ってくる」。

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 「もはや唐津は古里です」。昨年12月、東京から唐津に来て、キャラバンに立ち寄った50代女性。この3年で、唐津に足を運んだ回数は30回近くに上る。

 埼玉生まれで、社会人になってから、ずっと東京暮らし。朝から晩まで仕事に追われる。「人が多く、歩くのが速くて、せかせかしている。たまに疲れる」。だが、心を落ち着かせる「古里」はない。

 アニメを機に唐津を知った。2017年春、1泊2日で、唐津城など聖地を巡礼。海の景色や食べ物のおいしさに感動した。「ゆったりとした時間が心地よくて気持ちが癒やされた」

 聖地を巡るだけでなく、市郊外までドライブをしたり、唐津くんちを見たりする。屋台で仲良くなった曳(ひ)き子からは「くんちのときには、うちにご飯を食べにこんね」と誘われた。そんな出会いから、ますます唐津に引き込まれていく。「作品のファンから唐津のファンになった」。いつか唐津に移り住みたいと考えている。 (津留恒星)

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