学校の問題、法律家目線で助言 「スクールロイヤー」の取り組み

西日本新聞 くらし面 前田 英男

いじめで欠席…出席扱いできる?

 学校現場で増加するいじめなどについて、弁護士が法律の専門家の視点で未然防止や解決の糸口を探る「スクールロイヤー」の活用が広がっている。保護者のクレーム対応や生徒指導などへの助言も担うことで教職員の負担軽減が期待される一方、立ち位置を巡る課題も指摘されている。文部科学省は来年度にも全国に整備する方針。先行導入する大分県の現場を訪ねた。

 大分市の大分東高で、昨年10月にあったいじめ予防授業。体育館に集まった2年生約150人を前に、弁護士の藤崎千依さん(57)が一つの事例を紹介した。

 -ある中学校の男子生徒が同級生に恥ずかしいあだ名をつけられた。昼食の弁当のおかずを取られ、水筒のお茶も勝手に飲まれた。日常的に肩などを殴られたり「殺す」と脅されたり。生徒は学校に通えなくなり転校を余儀なくされた。

 「一つ一つを取り上げるといじめと分かるよね。やっている間にエスカレートするのかなとも思う。でも結果は重大でいじめられた側は苦しみ続けることになる」。生徒側は同級生を提訴。裁判所はいじめと転校の因果関係を認め、賠償金の支払いを命じたという。

 人の持ち物を壊せば器物損壊罪、殴れば暴行罪、嫌がる行為をさせれば強要罪、脅してお金を取れば恐喝罪…。藤崎さんは行為と法律の関係を次々と示しながら「最も怖いのがSNS(会員制交流サイト)。これぐらいなら大丈夫と軽い気持ちで発信しても法に触れる可能性はある」と訴えた。

 いじめの定義、構造、そしていじめに対する行動。この日は高校生向けに少し硬めの内容となったが、受講した高原弥々(やや)さん(17)は「普段、相手の気持ちを考えて行動しているか自問自答した。スマートフォンの使い方も見直したい」と受け止めた。

先行導入する大分県教委

 大分県教育委員会がスクールロイヤーを導入したのは2018年9月。ネットへの書き込みなど多様化するいじめに加え、保護者対応に学校側が苦慮するケースが増えてきたことなどを背景に、法律の専門家による支援が必要と考え、文部科学省の調査研究事業に手を挙げた。

 県弁護士会の協力を得て県内6地区に各3人程度の弁護士を配置。公立小中高と特別支援学校を対象に出前授業や教職員研修、法律相談を実施し、年3回は児童生徒や保護者からの電話相談にも取り組む。本年度も継続している。

 18年度、学校から寄せられた相談は38件。生徒同士の「身体的悪口」や、いじめによる欠席を出席扱いにするよう求める保護者への対応、給食費未納、自撮り画像のネット拡散、保護者の電話番号の共有に対する苦情など、内容は多岐にわたった。

 継続事案はあるが、保護者からの電話相談も含め弁護士が丁寧に指導、助言。学校からは本年度も昨年度を上回るペースで相談があり、県教委は「学校のよりどころの一つになっている」と手応えをつかむ。

「中立的立場」の浸透が課題

 ただ、こうした成果と学校側の過度の期待は「学校の顧問弁護士」という誤解を生みかねない。大分県教委と県弁護士会の協定書では、スクールロイヤーは学校や教委の代理人となることはできず、中立的立場であることを厳格に定める。

 「いじめ問題で誤った対応をした学校に強く改善指導するケースもある。軸足はあくまで中立で、その浸透が課題でもある」と県教委の担当者は話す。

 学校でのトラブルに法的な線引きをするという一面が目立つ中で、弁護士の藤崎さんも「より有効な活動にするには、私たちの役割を理解する学校側の下地が不可欠。信頼関係を築くために私たちも学校を理解する必要がある」と言う。

 大分県の小中高校、特別支援学校で18年度のいじめの認知件数は1万1356件と前年度(5493件)から倍増した。スクールロイヤー導入で学校現場のいじめへの感度が上がったとも言えるが、目標はいかに予防して減らしていくかだ。閉塞(へいそく)感が漂う学校に風穴をあける存在になり得るか。「子どもの最善の利益」(日本弁護士連合会)を目指す今後の取り組みを注視したい。(編集委員・前田英男)

スクールロイヤー】学校でのいじめや保護者とのトラブル、体罰などの解決に向けて法的に助言する弁護士。人権教育の授業モデルや教材の考案、いじめへの対応が法律にのっとったものかどうか確認する役割も担う。都道府県や市区町村の教育委員会と弁護士会が連携し、学校などからの要請を受けて派遣される。東京都港区教委(2007年度から)や大阪府教委(13年度から)などが既に導入。日本弁護士連合会は18年1月、文部科学省に全国的な整備を求める意見書を提出し、文科省は18年度に大分県などで調査研究を実施。19年度も宮城県など12自治体で検証している。萩生田光一文科相は20年度、300人のスクールロイヤーを全国に配置する方針を示している。

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