【「世界の真ん中で輝く」】平野 啓一郎さん 

西日本新聞 オピニオン面

◆現実直視し危機感持て

 昨年12月に「2019年報道写真展」を訪れた首相は、「日本が世界の真ん中で輝いた年になった」とその感想を語ったが、私は耳を疑った。

 首相は度々、この言葉を繰り返し、つい先日の国会施政方針演説でも口にしたが、妄想でなければ嘘(うそ)である。

 根拠として挙げられたのは、米大統領の来日、G20の開催、新天皇即位礼、ラグビーWカップの開催である。

 しかし、ラグビーWカップは、前回はイングランドで開催され、G20の前議長国はアルゼンチンだったが、それを理由に、これらの国々が「世界の真ん中で輝いた」と認識した人は皆無だろう。写真展には、台風被害の写真も展示されていた。そうした現実に目が向けられず、政府のプロパガンダに加担しただけならば「報道」の敗北である。

 そもそも、「世界の真ん中で輝く」とは、何なのか? 首相の頭の中には、日本を「真ん中」に描いたメルカトル図法の地図が染みついているのかもしれないが、地理的な意味で「世界の真ん中」などは存在しない。象徴的な意味だとするならば、いよいよ厚顔である。

    ◆   ◆

 国際協調が切実に求められる今日、どこかよその国が、そんなことを真顔で主張している様を想像されたい。

 仮に、日本がもし、世界の政治や経済、文化の本当の中心であったとしても、こんな傲(おご)り高ぶりは、凡(およ)そ「美しい国」の態度として相応(ふさわ)しくあるまいが、現実には、悲惨な夜郎自大に過ぎず、誰がどう見ても、日本は、世界の真ん中で輝いてなどいない危機的状況である。

 昨年は企業の倒産件数がリーマン・ショック以来、11年ぶりに前年を上回った。11月の景気指数速報値は6年9カ月ぶりの低水準で、景気判断は直近で4カ月連続「悪化」。10月の調査では実質消費支出が過去最低水準を記録。政府は雇用増加を強調するが、その約7割は非正規である。

 ユニセフの調査では、貧富の格差は、EUまたはOECD加盟国中ワースト8位。

 世界経済に於ける日本の名目GDPシェアは、過去最低の5・7%。1人当たりGDPはこの30年間で2位から26位に転落。19年度の実質成長率は、1%を割る見通しだ。

 世界経済フォーラムのジェンダー格差調査では、153カ国中、過去最低の121位。報道の自由度ランキングでは10年の11位から67位に急落。教育への公的支出の対GDP比は、OECDの比較35カ国中最下位。科学技術論文数は4位に、論文の質でも9位に後退し、世界大学ランキングでは、100位以内に東大と京大の2校しか入っていない。

    ◆   ◆

 昨年の出生数は、過去最低の86万4千人という衝撃的な数字で、推計より2年早く90万人を割った。このままいけば、100年足らずで、日本の人口は5千万人減少するという予測もなされている。

 気候変動は、現実的な危機となっており、台風19号の経済損失は上場企業だけで300億円との試算も出ているが、日本は温暖化対策に後ろ向きな国として2年連続で「化石賞」を受賞している。

 その他、深刻な状況を伝える数字は枚挙に暇がないが、そうした状況下で、たった17日間の東京五輪を中心に3兆円もの莫大(ばくだい)な予算が費やされようとしている。……

 「桜を見る会」によって露呈した権力の私物化と、政府による公文書の隠蔽(いんぺい)・破棄の常態化、与党議員のIR汚職に公職選挙法違反事件、……と、政治腐敗も異様な様相を呈している。

 一体、どこが「世界の真ん中で輝く」日本なのか? 現実を直視し、危機感を持つことなしに日本の未来はない。

 【略歴】1975年、愛知県蒲郡市生まれ。2歳から福岡県立東筑高卒業まで北九州市で暮らす。京都大在学中の99年に「日蝕」で芥川賞。「マチネの終わりに」で渡辺淳一文学賞。「ある男」で読売文学賞。本紙朝刊で「本心」連載中。

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