サイの角のように自分らしく歩む【坊さんのナムい話・5】

西日本新聞 くらし面

 受験シーズンがやって来ましたね。この時期は進路に悩む学生さんも多いのではないでしょうか。

 お釈迦(しゃか)様の教えに「サイの角のようにただ独り歩め」という言葉があります。お釈迦様がいたインドのサイは角が1本で、単独行動をするのだそうです。ですから、ここでのサイの角は「孤独」を表しているといわれます。しかしお釈迦様は孤独を勧めているのではなく「ただ一人、自分自身の心と向き合うことも必要だ」と説いていると私は理解しています。

 私は住職になる前は高校教員でした。当時、生徒たちが抱える悩みの多くは将来への不安でした。具体的な行動が伴わなければ「妄想」ですが、一歩でも実現に向かって努力の歩みを進めたならば、それは「夢」です。私が進路相談で心掛けたのは「生徒の夢を否定しないこと」でした。

 こうした考えに至ったきっかけは、大学時代に出会ったバイト先の後輩です。ホテルのフロントの夜間業務をしていて、その後輩はとてもルーズでした。服装はだらしないし、仮眠の休憩時間が終わっても起きてこない。しかも「自分はミュージシャンになってビッグになるんだ」なんて言い張る。バイトを始めたのも、40万円のギターに費やした借金の返済のためでした。

 ある日、私は後輩に説教します。「夢を見るのもいいけど、まずは足元を固めて就職を目指すべきじゃないか。仕事しながらでも音楽はできるし、本当に実力があるならその後でも芽は出るんじゃないのか」と。ですが後輩は私の意見を受け流し、脇目も振らずに音楽の道をただ一人歩みます。その後、日本武道館でライブをするほどの人気ミュージシャンになりました。それ以来、私は人の夢を否定しなくなりました。

 人生の大きな決断をするとき、周囲の意見と自分の思いとの間で葛藤することがあります。尊敬できる人の助言に耳を傾けることは大切ですが、自分の人生を歩むのは自分自身。選んだ責任も捨てた責任も、誰も肩代わりしてくれません。心の声に耳を澄ませ、サイの一本角のように自分らしく歩んでみてはいかがですか。

 (永明寺住職・松崎智海 北九州市)

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