アイドル編<449>新しい世代のファン

西日本新聞 夕刊 田代 俊一郎

 熱気にあふれていた。今月中旬、福岡市の歌謡曲バー「スポットライト」で開かれた年1回のイントロクイズ大会の光景だ。東京、滋賀などの遠来組を含め30人が参加した。30人は3組に分かれて1次、2予選を早押しで争い、勝ち抜いた10人が決勝で競うシステムだ。小さなこの店がこういったイベントを開催するのは全国的にも珍しい。音楽都市・福岡の懐の広さといえるかもしれない。 

 80年代のアイドル歌謡を同時代の音楽として聴いた世代は、現在、50歳前後である。当然、参加者はその世代が中心ではあったが、参加者のうち最年少は福岡市の会社員、岩瀬恒陽(23)である。 

 「4、5年前から毎年、この大会に参加しています」 

 店内には横綱、大関など前回の大会の番付表が掲げられている。岩瀬の名前は「前頭」として記されている。岩瀬は「前頭以上を狙いたい」と席に着いた。

 イントロが鳴る。岩瀬が数秒の早押しで答える。 

 「くちびるNetwork」

 正解。岡田有希子の1986年のアイドル歌謡だ。さらに岩瀬が押す。 

 「サザン・ウインド」 

 中森明菜の84年の曲だ。岩瀬はこのようにして予選を勝ち抜け、決勝10人に残った。 

   ×    × 

 岩瀬には少年時代、忘れられない曲がある。昭和の歌との出会いだ。フォークグループ「青い三角定規」の「太陽がくれた季節」(1972年)である。小学校の担任教諭が歌詞カードを配って、クラス全員で歌った。 

 「子どもながらメロディーや歌詞がいいなと感じた」 

 父母も歌謡が好きでよく聴いたり歌ったりしていた。岩瀬はフォーク、演歌、アイドル歌謡など「昭和歌謡」を新しい体験として遭遇し、感受した。 

 17歳のときにネットでこの店があることを知った。 「敷居が高いと思いましたが、思い切ってドアを開けました。ソフトドリンクを飲みながら歌謡曲を聴き、それから通っています。聴く曲も徐々に増えました」 

 このクイズの世界には常連の猛者たちがいる。壁は厚い。若き岩瀬の挑戦は前回と同じ「前頭」で終わった。 

 遠景になりつつある昭和歌謡。それを生活のそばにある歌として耳を傾ける岩瀬のような若い世代もいる。 =敬称略

  (田代俊一郎)

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