聞き書き「一歩も退かんど」(71)「偽証罪で逮捕する」 志布志事件冤罪被害者 川畑幸夫さん

西日本新聞 オピニオン面

 人は皆、仮面をかぶっていると言いますが、まさか自分の味方と思っていた人物がこれほど一変するとは…。長い人生、好事魔多しとはこのことです。

 2007年12月4日、私は鹿児島地検に出かけます。H元警部補の踏み字裁判で被害者の私が証人尋問に立つことになり、その打ち合わせでした。出がけに妻の順子が「これ持って行ったら」と、テープレコーダーを差し出しました。

 これから会う福岡高検の室井和弘刑事部長は、6月の事情聴取で優しく丁寧に話を聞いてくれました。だから、妻には「きょうは録音しない。室井さんはHを改心させてくれるかもしれない立派な人だから」と断りました。

 妻は「念のために録音した方がいいよ」と食い下がりますが、「いいから」と聞き流し自宅を出ました。

 地検に到着すると、私はまず室井部長に「前回は録音しましたけど、今回は失礼かと思いまして、録音はしませんので」と告げました。起訴状は踏み字の回数が「1回」で実に残念でしたが、この人なら私の主張をくみ取ってくれるかもしれないというほのかな期待があったのです。室井部長は両手を広げて歓迎し、「ざっくばらんにいきましょう」と応じました。

 ところが、踏み字の回数は約10回など、私が証言したい内容を話すうちに、室井部長が徐々に冷たい表情に。付箋のたくさん付いた文書をペラペラめくって、こう告げたのです。

 「川畑さん。あなたの言っていることは全部うそです。それを法廷で証言するなら、あなたを偽証罪で逮捕しなければならないよ」

 私は「エッ」と後ろにのけぞり、「何でですか」と聞き返しました。すると、室井部長はもう一度「あなたの言っていることは全部うそだ」と告げ、「踏み字も10回なんてないよ」。

 私が民事訴訟で「3回」と認められたことを主張すると、「それは紙が3枚あったから、3回と言っただけ。Hの1回という証言が正直に言っていることで、本当だ」。さらには「あなたは10回と言うけど、どこに証拠があるの?」。

 密室で起きた踏み字は、私の証言以外に確たる証拠がなかったからこそ、不法行為を立証するため血のにじむ苦労をしたのです。それを今になって高検の検事が突いてくるとは。

 室井部長は被害者の私ではなく、被告人のH元警部補を擁護したいのでしょうか。頭が混乱してきました。 (聞き手 鶴丸哲雄)

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