車いすの大学生活、善意と制度が支え ヘルパーやサポーターどう確保

西日本新聞 三宅 大介

連載:バリアフリーの現在地(5)

 午前8時半前、熊本学園大(熊本市)前のバス停。到着した路線バスに出迎えの男性ヘルパーが乗り込み、電動車いすの中山智博さん(19)=同大社会福祉学部1年、福岡県筑後市=とともに降りてきた。息つく間もなくヘルパーが車いすを押し、2人で大学構内に向かって走りだす。

 トイレ介助に約10分。別棟でリポートを提出し、エレベーターで7階へ。1時限目の教室に入る前、智博さんはこの日、ある研修会への参加を自ら電話で申し込んだ。顔の前にヘルパーからスマートフォンをかざしてもらいながら-。

 ヘルパーの朝の付き添いは30分。「毎日私は(時間と)戦ってる」。智博さんは、そうおどけてみせた。

 ●事業者探しに奔走

 同県立福島高(八女市)から同大に進学した智博さん。肢体が不自由なため、両校の教職員が仲立ちする代筆受験が認められ、小論文の試験を突破した。

 合格が決まったのは2018年、高3の冬。学級単位での支援が可能な小中高と異なり、大学は自宅から距離もある。新たな課題は、食事やトイレの介助を含め、通学や学内生活の支え手の確保だった。小中高と智博さんを支えた教員らに加え、障害福祉サービスの相談支援専門員や筑後市の担当者が知恵を絞った。

 着目したのは市町村がヘルパーを派遣して重い障害のある大学生を支える「修学支援事業」。障害者差別解消法の施行を背景に、国が18年度から補助事業としてスタートしていた。

 制度化には財源のほか、実際に対応するマンパワーの確保もハードルとなる。専門員と同市は大学側を通じて熊本市内のサービス事業者探しなどに奔走。智博さんもJR筑後船小屋駅から1人で大学に向かい、介助なしで移動できるか試した。

 結果、登下校時は「熊本市内のヘルパーを朝夕30分のみ、筑後市の福祉予算で派遣する」と決定。自宅から同駅までは母順子(のぶこ)さん(54)が車で送る。同駅から新幹線で熊本駅、同駅前から路線バスで大学前まで智博さんは1人で移動する。「でも駅員さんが改札からホームまで付き添って、帰りも『今日は遅いねえ』と心配してくれる。いろんな方が見守ってくれてありがたいです」(順子さん)

 ●バイト学生が代筆

 授業中の支援は学生サポーターの役目。同大が学内でアルバイトとして雇う。この日のドイツ語の時間、智博さんの隣でノートを代筆したのは4年生の佐伯南さん(22)。「中山君はよく話すので接しやすい。だんだん彼の言葉も分かるようになった」とほほえむ。

 障害のある学生が多く在籍してきた同大は、障害者差別解消法が施行された16年度に「インクルーシブ学生支援センター」を設置。学生支援室、相談室、保健室と三つの窓口があり、学生個別に対応する。智博さんには学生サポーターに加え、合理的配慮の一環として、大学が独自に雇うヘルパーが毎日昼の1時間、同センター内で食事やトイレの介助を行う態勢とした。

 ただ近年、学生サポーターが減少し、同センターに2人常駐する嘱託職員の支援員が代役を務めることも。一方、智博さんは授業の空き時間などに大学の図書館で本を一人で読めるような支援も依頼している。同センターの稲葉慎一事務室長は「学生の要望に応じ、対話を重ねながら解決を図っていきたい」と話す。

 ●地域間格差を痛感

 智博さんの大学生活はもうすぐ1年。ヘルパーがいない時間にトイレに行きたくなったり、自力でスマホの確認が難しいため休講などインターネットでの連絡では不十分だったり…。「不便な部分はまだ少なくない」と感じる智博さんだが、困ったときは先輩や友だちが力を貸してくれる。「誰かの支えに限りがある分、一人の時間は自由を満喫できる」と前向きだ。

 高校、大学進学を実現し「福祉や教育を含めた制度や環境のありがたさ」を感じる半面、「地域によって差があり、誰でも同じような機会を得られるとは限らない現実」も痛感する。

 「将来は自分が支える立場で障害のある人一人一人に寄り添い、楽しみや苦しみを分かち合える存在になりたい」。目標は社会福祉士の資格を取ること。体当たりの歩みは止まらない。 (編集委員・三宅大介)

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 【ワードBOX】大学修学支援事業

 障害者総合支援法に定める重度訪問介護などは通学では利用できないため、厚生労働省がモデル事業を経て2018年度、自治体の裁量で行われる地域生活支援促進事業の一環として制度化した。市町村が主体となり、重い障害者の大学への通学や学内生活を支えるヘルパーを提供。人件費は国が半分を負担する。ただし「大学側が支援体制を構築できるまで」としている。

 

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