緊急ヘリ設備なぜ消えた タワマン防災に不安も

西日本新聞 ふくおか都市圏版 坂本 信博

 「うちのタワーマンションには緊急時のヘリコプター用スペースがありません。以前はあったようなんですが…」。福岡市の男性から特命取材班に調査依頼が寄せられた。建設時は屋上にあったはずが、いつの間にかなくなったという。2017年にロンドンの24階建て超高層マンションで火災が発生し、多くの犠牲者が出たのも記憶に新しい。はしご車も届かないタワマンの防災対策はどうなっているのか。

 男性は昨年、22階建てのタワマンの上層階1室を中古で購入。管理人が屋上を案内してくれた際に「以前、ヘリポートがあったんですよ」と教わったと話す。

 現場に足を運んだ。天を突くようにそびえ、屋上の様子はうかがうすべがない。そこで、地図アプリのグーグルマップで見てみた。数年前に撮影された衛星写真は屋上にヘリ設備を示す「R」の文字がはっきり確認できたが、最新画像では完全に消えていた。

 タワマンの定義はないが、一般的に、建築基準法を基に「超高層建築物」に分類される高さ60メートル(20階建て程度)超の住居用建築物とされる。福岡市でもここ数年、その数が急増した印象があるが、市住宅都市局は「数は把握していない」としている。

 高層建物で火災が起きると、消火や避難がより難しい。建物が密集した都市部では、延焼や建物の倒壊によって被害が周囲に及ぶリスクもあり、一定以上の高さの建物には耐火や耐熱の構造を強化するなどの火災対策が義務付けられている。

 例えば、11階以上の建物にはスプリンクラーを設置する義務がある。高さ31メートル超の建物には、消防車のはしごが届かなくても消火活動ができるよう、非常用エレベーターの設置が必要となる。階数や広さによっては連結送水管を設けなくてはならない。

 ヘリ設備もその一つ。市消防局は、消防庁が1990年に出した通知を基に、高さ45メートル超の建物には救助ヘリが空中停止できる「緊急救助用スペース」(Rスペース)、高さ100メートル超の場合はヘリの離着陸も可能な「緊急離着陸場」(Hスペース)の設置を促す行政指導をしている。

 ヘリ設備の設置には、境界を示す照明▽点滅する飛行灯台▽周囲に一定の空間-などがあることが条件。Hスペースの場合はヘリから漏れた油の回収設備や、ヘリが着陸できる強度も必要になる。

 市消防局は高層ビル火災に備えて定期的に上空から調査し、ヘリ設備の把握に努めている。2019年3月末現在、市内には45メートル超の建物が198棟あり、航空法に基づくヘリポート(6カ所)以外に、Hスペースは10カ所、Rスペースは47カ所ある。

 今回のタワマンについては「16年7月の調査で、Rスペースがなくなっていることに気付いた。現地を確認すると撤去済みで、『あった方がいいんですが』と伝えるしかなかった」と担当者。上空調査でヘリスペースの消失を確認したのは初めてという。

 タワマンの関係者に理由を聞くことができた。数年前に屋上の水漏れがひどく、防水工事をした際にRスペースを撤去。再設置にかかる費用が約450万円と高額だったため、再設置はいったん見送ったという。このタワマンの管理規約には、Rスペースについて「所轄消防署長の許可なく変更、撤去をすることはできない」と明記されていたが、市消防局は「ヘリ設備撤去について相談を受けた事実は把握していない」としている。

 区分所有者から「早く復旧すべきだ」という声も出たが、本紙記者が取材後の19年11月に、住民らでつくる管理組合の総会で「法的に設置義務のある設備ではない」「消防署員点検時にも改善指導はなされていない」などとしてRスペースの廃止を決定。規約を変更した。

 管理会社も撤去を認めた上で「ヘリ設備の存廃は管理組合の判断」と回答。市消防局の担当者は「ヘリ設備の設置や維持には経済的負担がかかることもあり、義務ではない。あくまでもお願いするしかない」と語る。男性は「火災が万一起きたらと不安だし、不動産の価値にも影響するのではないか。管理組合に再設置を働きかけたい」と話している。 (坂本信博、宮崎真理子)

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