「差別繰り返さぬ」ハンセン病教育 模索する現場

西日本新聞 社会面 山下 真

 昨年6月の熊本地裁判決で、家族が受けた差別に対する国の責任も認められたハンセン病問題を巡り、教育のあり方を見つめ直す動きが広がりつつある。判決は文部科学相が差別解消に向けた学校教育を進める義務を怠ったと指摘。実際に福岡県の小学校では7年前、児童が偏見に基づく感想文を書き送った問題が波紋を広げた。ハンセン病を正しく伝え、差別を繰り返させない教育とは-。現場の教諭は試行錯誤を続ける。

■当事者招き授業も

 「この手はね、ハンセン病の後遺症があるんだよ」

 1月22日、福岡県久留米市の金丸小。ハンセン病をテーマにした5年生の授業で中修一さん(77)が指先の曲がった手を見せた。子どもたちが中さんを囲み、次々と握手する。男児の一人は「指先が冷えてたけど、ほかの人と変わらない」と言って見つめた。

 中さんは国立療養所「菊池恵楓園」(熊本県合志市)の退所者で、ハンセン病問題の語り部として各地で講演を続ける。「当事者に話を聞けば、ハンセン病を身近に考えられる。差別を乗り越えた人間としての強さを感じてほしい」。田原孝一教諭(58)が授業の狙いを明かした。

 金丸小では2016年度からハンセン病教育に力を入れる。療養所に近い地域と比べ、福岡県では児童がハンセン病を学ぶ機会は少ない。教員も当初、どう教えるべきか悩んだ。

 教員有志はハンセン病国賠訴訟弁護団の徳田靖之弁護士(大分県)を訪ねた。痛烈だったのは教育現場も加担した強制隔離の歴史。都道府県が患者を探し、療養所に収容した「無らい県運動」では教員が児童を患者として通報することもあった。「差別が続いた背景には教育の責任もある」。一人一人が自問した。

 以来、教員たちは恵楓園に通うようになり、入所者と交流を重ねてきた。家族訴訟の判決時には熊本地裁へ駆け付けた教員も。当事者からの学びにこだわり、授業に生かしている。

    ◇    ◇ 

 福岡県教職員組合の研究機関「県教育総合研究所」は3年前、小中学校の教員向けにハンセン病の指導計画を盛り込んだ学習資料集を作成した。念頭にあるのは、教える側の認識不足が引き起こした問題だった。

 13年11月、県内の小学6年生の授業で教諭が「ハンセン病は体が溶ける病気」などと誤った説明をした。児童は「怖い」「友達がかかったら、私ははなれておく」と感想文につづり、そのまま恵楓園に郵送。県教育委員会が謝罪する事態となった。「教諭自身がどこまで理解できていたのか」。研究員の高浜俊雄さん(68)は振り返る。

 これを教訓に、教諭ら約10人が2年以上の議論を重ねて授業展開案を検討した。例えば恵楓園を囲った逃走防止用のコンクリート壁を紹介する授業では「うつりにくく、治る病気であるのに、なぜ隔離したのかを考えさせる」などと具体的な留意点を記し、今も残る差別について考えさせる56ページの資料集を作った。家族訴訟を加えた改訂版の検討も始まった。

 誤った理解から偏見や差別は生まれ、深刻化する。同じ過ちを二度と繰り返さないために、高浜さんは考え続ける。「授業では元患者を同情の対象でなく、同じ人権を持つ個人として意識させることが大切だ。子どもにハンセン病の実情や過去の隔離政策を正しく伝えることが、差別や偏見の解消につながっていく」 (山下真)

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