校長先生、第二の人生は焼き肉店主 八幡工業高を昨春定年退職

西日本新聞 北九州版 西山 忠宏

 34年間の高校教員の仕事を昨年春に終えた後、第二の人生として焼き肉店経営に挑んでいる人がいる。教員生活の大半を福岡県立八幡工業高校(北九州市八幡西区)で過ごし、同校校長で定年を迎えた福津市の那波正宣さん(61)。「退職で愛着がある高校とつながりがなくなるのは寂しいと思い、卒業生や元同僚の教員が集える場所を設けた」と、八幡西区黒崎地区に開いた店の名は同校にちなんで「八孝(はちこう)」にした。那波さんは連日、同校関係者らの来店を待ち構えている。

 八孝は昨年5月、JR黒崎駅から徒歩約5分の場所にオープン。「黒崎駅北側の工場地区で働く卒業生が多いので、黒崎で開くことにこだわった」と那波さん。掘りごたつ席などがあり一度に約50人が利用できる。開業に向けた店の内装や水道工事はそれらを本業とする同校の卒業生たちが割安で引き受けてくれた。

 料理や材料の仕入れなど日々の主な仕事は、同校の教え子の兄でフレンチ料理店経営の経験がある上村秀字さん(47)に任せている。上村さんは焼き肉に加え、洋風料理やワインもメニューに用意。那波さんは「教え子のお兄さんなので信頼できる」と話す。

 自身も連日夜に店に出て焼き肉用の網を洗うなどの仕事をこなす。来店した同校関係者たちの話の輪に加わるのが楽しい。「教え子たちが焼き肉を食べながら在校中にやった校則違反を打ち明けて、『まじか!』と驚くこともある」と苦笑いする。

 九州工業大卒業後、企業に就職し、1985年度に八幡工業高の講師(非正規)に転職。翌年度に正式採用となって以来、2018年度の定年退職まで4年間以外は同校に勤務。機械系の教員として溶接やセラミック加工などを教え、柔道部も指導。18年度までの3年は校長、その前の3年は教頭を務めた。

 「体育大会の櫓(やぐら)づくりに放課後、1カ月近くかけて取り組む生徒たちを、管理職になるまでは毎年指導したのが大きな思い出。生徒たちは不満をぶつけてくるなど例年いろいろとあったが、大会後は必ず感謝の言葉をくれた。大勢の生徒と心のつながりを持てた」

 「生徒の相談事や要望にはすぐに対応することを心掛けた。後回しして忘れでもしたら、生徒からの信頼は絶対に得られないから」

 「心残りは担任として受け持った生徒約160人のうち退学者が数人いたこと。なぜ卒業させてやれなかったかと今でも考え込む」

 19年3月の同校卒業式。校長として3年生に卒業証書を渡した後、サプライズがあった。生徒たちから「長きにわたり本校のために私たちが幸せに学校生活を送れるよう一生懸命に働き続けてこられました」とする感謝状を渡され、涙が流れて仕方なかったという。

 客の半分は同校関係者。収支はかろうじて黒字という。那波さんは「初期投資も相当な額なので10年は存続させたい。店で卒業生同士の新たなつながりが生まれればうれしい」と語る。 (西山忠宏)

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