聞き書き「一歩も退かんど」(76)反省の色は薄いまま 志布志事件冤罪被害者 川畑幸夫さん

西日本新聞 オピニオン面 鶴丸 哲雄

 年が明けて2008年1月24日。この日は午後から踏み字裁判の論告求刑がありますが、警察庁が午前中に「取り調べ適正化指針」なるものを発表しました。志布志事件と、富山県の強姦(ごうかん)事件で受刑囚とは別に真犯人が現れた氷見(ひみ)事件。この二つの冤罪(えんざい)事件の捜査の問題点を検証し、強引な取り調べをしないよう指針を定めたのです。

 内容は(1)8時間以上の取り調べは本部長などの許可が必要(2)各警察本部に監督担当課、各警察署に監督担当者を置き、取り調べ状況を随時確認する(3)取調室の全てに外部から室内が見える鏡を付ける-など。

 でも、肝心の「可視化」には触れていません。可視化を求める世論の高まりにふたをする意図すら感じます。事前に記者から感想を求められた私は「耳当たりの良い言葉を並べただけ。取調室の中が見えるマジックミラーを付ける前に取調室の録音・録画を認めるべきだ」と答えました。

 そして、福岡地裁で午後から踏み字事件の論告求刑公判が始まりました。まずは被告人質問で、H元警部補が証言台に立ちました。この辺りで素直に罪を認めるか、まだうそを連ねるか。もちろん、後者でした。

 「(踏み字は)屈辱感を与えるためではなく、(黙秘をやめて)私に向き合って話をしてほしいとの気持ちからの行動」。さらには、「志布志事件は県警が情報に基づいて捜査を開始しており、でっち上げではありません」とまで堂々と言いました。面の皮が厚いとはこのことです。

 最後まで反省の色が薄いH元警部補に対し、林秀文裁判長がこんな質問を。

 「あなたが同じ状況に置かれれば、どういう感情を持つでしょう。侮辱されたとは思いませんか」

 H元警部補は「不快な念を持ったかもしれませんが、侮辱とは思いません」。いやいや、不快に感じればそれが侮辱でしょう。

 裁判長はさらにH元警部補を追及します。「文字を踏ませることの意味は精神、魂を踏ませるという気持ちではないですか」「江戸時代の踏み絵は頭に浮かばなかったのですか」

 H元警部補は顔を真っ赤にしていずれも「いいえ」と否定しました。

 この日警察庁が発表した適正化指針には監督対象行為として、「容疑者の尊厳を害する言動」が挙げられました。H元警部補は「尊厳」を何と思っているのか。オールバックの頭の中をのぞいてみたくなります。 (聞き手 鶴丸哲雄)

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