聞き書き「一歩も退かんど」(77)悔しさは尽きねど… 志布志事件冤罪被害者 川畑幸夫さん

西日本新聞 オピニオン面 鶴丸 哲雄

 踏み字裁判は論告求刑を前に最後の攻防に入っています。H元警部補は被告人質問で、踏み字の違法性を否定しました。今度は私が意見陳述する番です。

 「H元警部補は踏み字によって私たち家族の絆を土足で踏みつけにしました」と切り出すと、思わず涙がこぼれてきました。「正義を実現すべき警察官なのに、怒りと悔しさが湧きます」と訴えを続けました。

 「不当な黙秘に対しては踏み字も許される、というH元警部補の言葉は明らかな暴言です。この法廷でまたしても自尊心や肉親に対する情愛を踏みにじられました。何よりも、うそにうそを重ねる態度が許せません。厳罰に処すべきです」

 言いたいことは言いました。いよいよ検察側の論告求刑が始まりました。

 「肉親に対する愛情につけ込み、最も大切にしている人たちの名前を踏ませたことの精神的苦痛は、まさに陵辱・加虐行為そのもので、捜査行為としては到底許されない。犯行の動機に酌量の余地はない」。そう、その調子です。

 「国民の捜査機関に対する不信感を増大させ、警察全体の信用失墜につながるもので責任は重大である。このような行為をすれば厳しい処罰を受けるということが、今後の捜査の適正さを担保することにもなる」。全くその通り! いよいよ求刑です。

 「被告人に懲役10月を求刑する」

 えっ。耳を疑いました。せめて年単位で求刑してもらわないと、志布志事件で無実なのに長期勾留された者たちの苦しみとは釣り合いが取れないでしょう。

 「やっぱり期待外れでしたね」。閉廷後の記者会見。私は第一声で思わずこう漏らしました。考えてみるとこの裁判で検察側は、踏み字の現場に同席した警官を証人に呼びさえしませんでした。H元警部補への被告人質問では、弁護側の尋問が約1時間15分だったのに対し、検察側はたった25分。「検察は警察とやっぱり一緒でした」と声を絞り出しました。

 「踏まされたのは、私にとっては単なる紙ではなく(父親の)位牌(いはい)のようなもの。懲役10月は軽いです」と語ると、代理人の野平康博弁護士が私の心境を察してくれました。

 「この法廷で川畑さんの被害感情はさらに悪化しました。川畑さんの悔しさは言い尽くせません」

 悔しさは尽きねども、これで裁判は結審。判決は2008年3月18日です。 (聞き手 鶴丸哲雄)

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