洪水対策、関係法律に「横串」 堤防強化や河川改修 警戒区域で建築制限

西日本新聞 くらし面 長谷川 彰

 1月22日付の当欄で取り上げた滋賀県の「地先の安全度マップ」は、同県が取り組む先進的な治水政策の基礎情報として活用されている。その政策の要点を明文化したのが、「どのような洪水にあっても県民の命を守る」として2014年に制定された流域治水条例だ。

「地先の安全度」を地図に

 原点は、同県の知事を06年から2期務めた嘉田由紀子氏が、最初の選挙時に掲げたマニフェスト。当時あった六つのダム建設計画を凍結し、治水については堤防強化、河川改修、森林保全、地域水防強化といった地域密着型の対策を進める方針をうたった。

 それを踏まえ条例は、大雨で増水しても川を安全に「ながす」対策を根幹に、降った雨を一時的に「ためる」、氾濫が起きた場合に「そなえる」、被害を最小限に「とどめる」という四つの対策を組み合わせる。この総合的な取り組みを「流域治水」と呼ぶ。

 県議会などで「堤防から水があふれる事態を想定するのは、河川管理者として無責任」といった批判も出たという。これには、ダムに一定の治水効果があることは認めつつ、完成まで長期間は安全度が高まらず、むしろ川底のしゅんせつや河川敷などに生い茂った樹木の伐採、堤防強化などを進めた方が格段に早く安く効果を上げられる-との主張で理解を求めた。

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 特筆すべき施策の一つが「とどめる」対策に設けられた、浸水の危険度が高い地域での建築制限規定だ。

 安全度マップに基づき、200年に1度の大雨で建物の1階が水没する恐れのある場所(想定水位が3メートル以上など)を、浸水警戒区域に指定する。そこでは住宅や福祉施設、病院などを建てる場合、盛り土をしたり、2階以上を設けたりして想定水位より高い位置に避難空間を設けるよう義務化。違反した場合は建築主らに20万円以下の罰金を科す罰則規定も設けた。

 建築基準法にも災害危険区域を設定して建築制限できる規定はあるが、多くは被災後の土地で再発防止のために行われるケース。滋賀県のように事前予測に基づき踏み込むのは異例だ。

 また、不動産業者に対し宅地や建物の売買や賃貸借の契約時に、購入・入居希望者にその場所の想定浸水深などリスク情報を提供するよう努力規定を設けた。この取り組みに関しては、赤羽一嘉国交相が1月27日の衆院予算委員会で、今後、義務化する方針を表明して注目された。

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 条例制定から6年。先進的な内容でもあり「すべて一気に実現するものではなく、県民の理解を得ながら一歩ずつ進めている」(流域治水政策室)という。

 建築制限が課される浸水警戒区域の指定は、約50地域を念頭に置いているが、指定に至ったのは2地区。罰則規定も「当分の間、適用しない」と条例に付則が加えられている。

 一方、不動産業者による水害リスク情報の提供は「アンケートでは、思っていた以上に積極的に取り組んでもらっている」(同政策室)と手応えを感じているようだ。

 すべての対策の基礎となる地先の安全度マップは、河川、下水道、農業用排水路など国の行政で縦割りに管理された水のふるまいに、県独自で「横串」を差して関連付け、住民の視点でリスク評価している点が特徴的だ。

 横串を差す考え方は、治水と住民の安全確保のため、それらに関わる河川法や水防法、都市計画法、建築基準法などの施策を、運用しやすいよう総合的に束ねたこの条例の基調そのものとも言える。

 地先の安全度マップは内容を5年に1度見直す決まりだ。河川改修や宅地開発の進み具合などを踏まえ、きめ細かに洗い直すなど取り組みの実効性を高める努力も続けられている。

流域治水条例の概要

 「ながす」対策は、小河川は10年に1度の、大河川は30年に1度の洪水を想定して改修を進める。ただ「想定を超えた大雨が頻発し、災害に上限はない」ため、川の外側で「ためる」「そなえる」「とどめる」対策を進める。

 「ためる」対策には、1000平方メートル以上の公園や運動場、スーパーの駐車場などを念頭に、雨水貯留施設を備えるよう求める規定を盛り込んだ。「そなえる」対策では地先の安全度マップを基に、住民を交え地域ごとに浸水の危険度の確認と避難計画の検討を進める。

(特別編集委員・長谷川彰)

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