旧居留地で“領土問題”? 「ソ連」名義のまま放置、空き家は老朽化

西日本新聞 長崎・佐世保版 華山 哲幸

 長崎市南山手町の旧居留地に「ソヴィエト社会主義共和国連邦」名義で登記された土地がある。約1500平方メートル。30棟ほどが並ぶ家屋の一部には今も住民が暮らしているが、多くは空き家。この問題には対立するロシア、ウクライナ両国の関係が内在する。旧ソ連の国外資産を継承したとするロシアは積極的に動こうとはせず、国際問題に発展することを懸念する地元自治体も及び腰だ。

 異国情緒あふれる赤レンガ壁や石畳。近くには世界文化遺産「旧グラバー住宅」もある。

 長崎港を望むそんな住宅街の一角に仰々しい文言が記された看板が立つ。「この土地はロシア連邦の所有となったものです。許可のない使用、立ち入りを禁じます」。駐日ロシア大使の名前入り。近くの70代男性は「まさかこんな場所で領土問題が起こるなんて思ってもいなかった」と言う。

 ことの発端は1875年、帝政ロシアによる土地の取得にさかのぼる。当時の長崎は世界に開かれた国際都市。領事館の職員官舎が置かれたとされる。

 1917年のロシア革命で帝国は消滅。土地は放置され、終戦後に家を失った人たちが小屋を建てて住み始めた。その後は別の人に売ったり、賃貸したりするようになり、帝国による所有は過去の出来事になっていた。

 事態が動いたのは87年。旧ソ連は所有権を主張して長崎地方法務局に登記手続きをした。だが4年後に国家は解体、構成していた国々が連携する独立国家共同体が生まれた。2000年にはロシアが「(旧ソ連からの)継続性を有する国家」として住民に土地の明け渡しを求めて長崎地裁に提訴した。

 07年、住民側が和解金を支払えば、登記済みの土地所有権の移転を承認(譲渡)する和解が一部住民との間で成立。資力のない住民は立ち退き、死亡などで連絡が取れなくなったケースでは退去を命じる判決が出た。

 だが、現在でも土地の名義は「ソ連」のまま。ネックは「ウクライナとの関係だ」と、ロシア側の代理人弁護士が説明する。ロシアは旧ソ連が国外に所有した財産を引き継ぐとの協定を共同体の国々と結んだが、ウクライナとの関係が悪化したため発効に至っていない。そのため、裁判で和解金を払った住民への土地の譲渡も進んでいないというのだ。

 現地では手つかずの空き家が老朽化し、地元自治会は長崎市に対処を要請。市は18年夏に土地への立ち入り調査の許可を在日ロシア大使館に文書で求めたが、回答はない。市は一帯の歴史的価値をまちづくりに生かしたい考えだが、ロシアへの配慮で「一画」だけが放置されている状態だ。元長崎総合科学大教授の鮫島和夫さん(73)は「(この土地は)歴史の中で取り残されてしまっている。厄介者と思わず行政が先頭に立って解決に動いてほしい」としている。 (華山哲幸)

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長崎市は課税状況明かさず

 地方税法は、外国政府が所有する土地・建物に関して大使館、領事館や職員の居住施設に使用する場合のみ固定資産税の課税を免除している。長崎市南山手町の土地は当初は領事館敷地だったが、現在は民間の住居が立ち、課税対象になっていると推測できる。日本政府は1991年にロシアを「ソ連と継続性を有する同一の国家」と承認。固定資産税の請求先はロシアであるとの見方もあるが、土地の課税状況について市は「個別の案件には答えられない」としている。

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