発達障害者が過ごしやすい「ひとり空間」とは 大学の取り組み

西日本新聞 くらし面 三宅 大介

連載:バリアフリーの現在地(6)

 コミュニケーションが苦手など、外見では分かりにくい発達障害や精神障害がある人は、暮らしづらさがよく知られていない分、社会の配慮も行き届いていない。こうした障害者が過ごしやすい空間のあり方を研究し、社会にも提示しようと、九州大が本格的な検討を始めている。主体は建築や都市デザイン、発達障害学など異なる専門分野の教員でつくる「九州大学キャンパスバリアフリー検討研究会」。目指すは「ひとり空間のバリアフリー」だ。

●対面に耐えられず

 九大伊都キャンパス(福岡市)で、大学関係者のもとにある学生が訪れたのは約3年前のこと。自身にこうした障害があるといい「安心して一人で過ごせるような場所が分かる、学内のバリアフリーマップはないか」との問い合わせだった。

 生協の食堂は席がテーブルを挟んで向かい合う形。「誰かと対面では、落ち着いて昼食が食べられない」と打ち明けたという。

 そうしたマップは今もない。食堂にその後、壁と向き合う一人用のカウンター席ができ、学生はそこを利用することで“解決”したが…。「一般的な学内環境ではリフレッシュしたり、物事に集中したりするのが難しい学生がどこの大学でも増えています」と研究会事務局の特任助教、羽野暁(さとし)さん(42)は言う。「ただ精神障害や発達障害は一人一人の感じ方が違い、どんな空間の提供が必要か、その知見も不足しています」

 障害者差別解消法の施行で合理的配慮が義務づけられたことなども背景に、研究会は2年前に発足。当面は、こうした学生に寄り添った空間環境を、まず学内に具体化することが目標だ。「いずれは学内にとどまらず、住宅や街づくりにも生かせるモデルを示せたら」(羽野さん)

●ざわめき感じたい

 実際にどんな場所なら落ち着けるのか。一つの姿も浮かび上がってきた。

 メンバーで発達障害の心理臨床が専門の田中真理教授によると、当事者に共通するのは「光、音、におい、人混みなどに対する感覚が鋭敏なこと」。小中学校の巡回相談に15年以上、携わってきた経験があり「教室の電気の明るさが耐えられない子」などに数多く出会ってきた。

 印象的だったのは、そうした子が「掃除道具入れとロッカーの間の約40センチの隙間、あるいは教卓の横の大きな段ボールの中」で落ち着いている姿。「光が少し遮られ、でも人の気配は感じる場所」だった。

 研究会も学内でヒアリングを重ねたところ、当事者の一人が「昼ご飯や休憩で落ち着く場所」と挙げたのは、昼間に学生らの往来が多いエントランスホールのベンチソファ。羽野さんは「決して独りぼっちではなく、直接的な視線や話し声は遮断したいけど、他人の雰囲気は感じられるニーズが一定程度、あるのでは」と分析する。いわば「雑踏の中で匿名性を確保できる場所」だ。

 一方、学内の窓際などにいすやテーブルを並べた共用のリフレッシュスペースについては「天井が非常に高い1階は、たとえ仕切りがあっても広すぎて落ち着かない」との回答もあった。雰囲気、規模、広さ…。それぞれ多様なニーズがあることは間違いない。

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