受験生「参考書すぐ手にできない」…点字図書、ボランティア頼みに限界

西日本新聞 くらし面 国崎 万智

 視覚障害などがあって活字を読むのが難しい人が、本にアクセスできる環境づくりを目指す「読書バリアフリー法」が昨年6月、成立した。ただその鍵を握る点字図書や録音図書の充実がボランティア頼みだったり、出版社から書籍のデータ提供が進まなかったりと課題は多い。あらゆる人が本に親しめるようにするためには、何が必要なのか。

 点訳に半年待ち

 福岡県立福岡高等視覚特別支援学校の教諭、久保弘樹さん(47)は生まれつき弱視で、8年ほど前に全く見えなくなった。普段は、全国約400の施設や団体が加盟する点字図書や録音図書などのデータベース「サピエ図書館」を利用する。

 本の点訳や、音声化する音訳は、全国の点字図書館などに登録するボランティアが支えている。久保さんも、読みたい本が点字図書になっていない場合はボランティアに依頼することがある。ただ、点訳は文章を一文字ずつパソコン入力して点字データにし、誤字がないよう校正を複数回した後で紙に点字印刷するため、完成まで半年かかることもざらだ。久保さんは「特に深刻なのは、受験生が参考書をすぐに手にできないこと。ボランティア頼みには限界がある」と憂える。

 総務省の統計などによると年間の新刊書籍の出版数は約7万2千点。サピエ図書館と国立国会図書館に新たに登録される点字図書は約1万2千点にとどまる。

 福岡点字図書館(福岡県春日市)の夏秋圭助館長は「ボランティアを始めたばかりの人が一人で完成まで担えるようになるには最短5年かかる」と育成の難しさを指摘する。登録ボランティアの平均年齢は70歳近く、無理も言えない。

 データ提供に壁

 点字図書館や利用者が、本のテキストデータを出版社から購入できれば、一文字ずつ入力する手間が省けるため、より早く点字や音声にできる。だがデータ複製や流出への懸念は根強く、大手を中心に出版社からのデータ提供はなかなか進んでいない。

 東京の出版社「読書工房」は、本の購入者から希望があれば、テキストデータを提供している。成松一郎代表は「あくまでやむを得ない緊急措置」という。

 出版業界に詳しいNPO法人「HON.jp」の鷹野凌理事長は、データ流出以外の理由も挙げる。印刷部門を自社で持たない中小出版社の場合、印刷会社が校閲後の最終版データを持つケースが少なくない。データの所有権は印刷会社にあるとされているため、出版社が第三者にデータを提供するには、印刷会社に引き渡しを求める手間が発生する。さらに、点字化や音声化に対応するテキストデータに変換する費用もかかるため「コストに収益が見合わないと考え、出版社は労力を掛けたがらないのでは」とみる。

 点訳などに加えて期待されているのが、インターネットの普及で急速に広がる電子書籍だ。音声読み上げ機能が付いたタイプがあるためだ。ただ電子書籍市場の84・5%は漫画が占める(インプレス総合研究所調べ)。文芸や実用書などは、電子化に伴う著作権の問題や、売り上げが読めないこともあり、出版社は二の足を踏む。視覚障害者らのニーズに応えられるようになるかは未知数だ。

 米国の安全対策

 米国では、データ提供への出版社側の理解を得られるよう、安全対策の取り組みが進む。

 情報のバリアフリーに詳しい「ユーディット」会長の関根千佳さんによると、米国のインターネット図書館「ブックシェア」は、視覚障害や発達障害があって本を読むことが難しい子どもや学生を対象に、無料で書籍をデータ化し、送付するサービスを行っている。データを開いた個人を特定できる機能を備えており、複製などの不正使用があった場合は追跡できる仕組みになっている。こうした管理体制があるため、出版社や著者が不正を心配せずデータを提供できるという。

 関根さんは「日本でも、個人がデータを受け取り、点字や音声など自分に合った形式に変換して読む権利を保障すると同時に、違法に他人に渡さないためのルールを作る必要がある」と提言する。 (国崎万智)

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 【ワードBOX】読書バリアフリー法

 視覚障害や学習障害(LD)、肢体不自由などがあり活字を読むことが困難な人の読書環境を整備し、だれもが読みたい本を読めることを目指す。点字図書、拡大図書、録音図書、音声読み上げ対応の電子書籍といった「アクセシブルな書籍」の普及、インターネットの本貸し出しサービスの強化、情報通信技術(ICT)の習得支援などが柱。基本計画の策定と実施など、国と自治体の責務も盛り込んでいる。

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