伝染させたい話もある 井上 裕之

西日本新聞 オピニオン面 井上 裕之

 ささやかであっても、心に響くことはある。「不幸中の幸い」と言ってもよかろう。

 「雪中送炭是真友情」「謝謝日本」-。中国のネット上で、こんな言葉が飛び交っている。武漢市で発生した新型肺炎が拡大し始めた1月下旬以降のことだ。

 「雪中送炭」とは、寒さに震える人が暖を取れるよう炭を送ること。宋代の詩人の言に由来する。つまり、相手が困っている時に助けるのが友情。この意味に照らした日本への「ありがとう」である。

 武漢市には、友好都市の大分市や日本企業などがいち早く大量のマスクを送り届けた。それに対する感謝の声に加え、こんな話も伝えられている。

 加油(頑張れ)!武漢、加油!中国-。肺炎発生当初、日本のドラッグストアの中には、こんな張り紙をして、マスクを値引きした店もあったそうだ。その光景に中国からの訪日客が感激し、スマホで写真に収めて母国に発信。そこでも反響が広がったという。

 「日本を見直した」の声に交じって「花粉症の季節だから向こうもマスクが必要だろうに…」とこちらを気遣う声も。肺炎は困るが、親日ムードの“伝染”なら大いに広げてもらってよかろう。

 中国で2003年に重症急性呼吸器症候群(SARS)が猛威を振るったころ、北京で勤務していた。そこでも少しうれしいことがあった。日本食レストランの繁盛。「日本は清潔な国」「和食は体に良い」と聞いた人々が感染予防にと足を運び始めたのだ。幸い、中国在住の日本人から感染者は出なかった。それも和食への関心につながった。

 ただし、当時の日本観はイメージが先行していた。市民の多くはパスポートを持たず、海外旅行経験者はごくわずか。日本側は北京、上海などの富裕層、それも団体旅行に限って入国ビザを発給する措置を取っていた。

 今では一変。中国の発展に伴ってビザ要件は緩和され、年間訪日客は900万人に。日本の良さにじかに触れ、実感として「親日」に傾く人が増えた。そんな中で、今回の新型肺炎禍が起きた。

 日本でも感染がじわじわ広がり、マスク不足が続くなど事態は深刻だ。国内対策に全力を挙げるのは当然として、ここは中国への支援も惜しみなく続けることが肝要だ。それが早期の封じ込めはもちろん、日本人気の拡大や訪日ラッシュの再来につながろう。

 「転禍為福」。中国には古くから伝わるこんな熟語もある。日本でもよく知られる。そう、災いを転じて福となす-である。 (特別論説委員)

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