持続可能な社会担う役目も 大津愛梨さん

西日本新聞 オピニオン面

◆農家の嫁の50年

 私は「農家の嫁」だ。良い響きだなぁ、とわれながら思っているが、半世紀前は全く違う意味合いだっただろう。1964年に開催された東京パラリンピックに、当時大学の建築科の学生だった私の母はボランティアとして参加し、それがきっかけとなって障がい者の住宅をテーマとした卒業論文を書いた。それから50年間、障がいのある方の家を設計する建築士として生きてきた。当時、「バリアフリー」という言葉さえなかったし、障がいのある方が自立して生活する事さえ珍しい時代だったという。半世紀で社会は大きく変わった、と2020年を迎えて母が言う。

 「農家の嫁」を取り巻く状況もこの50年で大きく変わったに違いない。キツイ、大変、というイメージは今でも持たれるが、一方で「素敵(すてき)ですね」とか「羨(うらや)ましいですね」と言われることも少なくない。農家の嫁として苦労が絶えなかった義理の祖母の話を聞く限り、半世紀前からは考えられない状況だろう。

 実は世界的にみると、農薬の過剰使用や森林を破壊する焼き畑など、農業は環境汚染や環境破壊の原因とみられることの方が多い。しかしヨーロッパでは、環境保全型農業や農業の多面的機能が政策的に重視されて久しく、また日本でも「里山」は人間の営みと自然が共生する姿として長らく大切にされてきた。その里山を維持・管理してきた立役者が農業者や林業者であるわけだが、その数は今後激減する見込みだ。世界の人口は爆発的に増えていくと予測される中、将来的にも食糧を確保し、生物多様性の宝庫である里山を次世代に繋(つな)ぎ、心身ともに健康な子供たちを育てていくためには、「農家の嫁」という存在は今後ますます重要になるだろうと感じている。

 今年で就農18年目。「農業なくして持続可能な社会なし」というメッセージを就農以来発信し続けているが、否定された経験はいまだかつてない。むしろここ数年は、持続可能な開発目標(SDGs)という言葉を耳にする機会が増え、環境保全型農業に取り組みながら合成洗剤や使い捨てのモノをなるべく使わない暮らしを心がけている私たちの生き方に対して共感してくださる方は確実に増えてきている。50年後には「農家の嫁」が憧れの存在となれるようこれからも胸を張って生きていきたい。

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 大津 愛梨(おおつ・えり)NPO法人田舎のヒロインズ理事長 1974年生まれ、東京都出身。熊本・阿蘇地域で地元食材の生産現場を巡る「レストランバス」のプロデュースも。2017年、国連食糧農業機関(FAO)の「模範農業者賞」に選ばれた。

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