聞き書き「一歩も退かんど」(81)取調室の闇なお深く 志布志事件冤罪被害者 川畑幸夫さん

西日本新聞 オピニオン面 鶴丸 哲雄

 2008年3月18日、H元警部補に懲役10月、執行猶予3年の有罪判決が下った後の記者会見。まず私が発した言葉は「思っていたよりも(H元警部補に)厳しい判決でした。真摯(しんし)に受け止めて反省してほしいと思います」。

 もちろん、懲役10月は罪の重大さに比べれば軽すぎると今も思っています。でも求刑10月だったので、判決ではまさか無罪はあり得ないとしても執行猶予付きで懲役2~3月くらいでは、と予想していたのです。それが求刑通りの判決が出て、「裁判長はきちんと見ていてくれたと思います」と感謝を述べました。

 ただ、踏み字「1回」の認定については「残念で、納得できません」と不満を表しました。そして「もしも取調室の可視化が実現していたら、(どちらの証言が正しいか)簡単に分かったはずです」と強く指摘しておきました。

 続いて代理人の野平康博弁護士がこう問題提起しました。「取調室というあり地獄に落ちてしまったら、もうはい上がれません。もしH元警部補が踏み字行為を全面的に否認していたら、裁判長は有罪判決を書けたでしょうか。この裁判は、取調室という密室の闇がいかに深く、暗いかを明らかにしました」

 誰よりも熱心に志布志事件の被害者救済に携わってきた野平先生の言葉に、記者たちがうなずいています。私も訴えました。

 「志布志事件の真相はいまだ何一つ明らかになっていません。一日も早い取り調べの全過程の可視化が必要です」

 もともとこの裁判は、どうやって志布志事件という冤罪(えんざい)がでっち上げられたのか、真相を知りたくて告訴したのです。鹿児島県警の組織的関与はあったのか。取り調べの手法に構造的欠陥はなかったのか。そうした根本的な捜査の問題点を検察側が法廷で全く取り上げようとしなかったため、裁判はこんな薄っぺらな結果で終わったのです。

 私は会見の最後に偽らざる感想を述べました。「結局はH元警部補1人に、県警が責任を押しつけた感じがしてなりません。踏み字をした背景には、県警幹部に乗せられた部分もあったのではないでしょうか」

 会見を終えて帰る間際、福岡のテレビ局が判決のニュースを流していました。画面にはH元警部補の福岡市内の住まいが映し出されていました。妻と子ども3人もこの部屋で暮らしているのでしょうか。 (聞き手 鶴丸哲雄)

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