「しゃっと目覚め」 入浴楽しむ「朝風呂党」 鹿児島・日置市の温泉

西日本新聞 もっと九州面 河野 大介

 見た目は銭湯でも、中身は温泉が当たり前の鹿児島県。お湯を沸かす手間や燃料費もかからず、早朝から営業している所も多いが、日置市には「日本朝風呂党本部」があるという。入浴の習慣では夜風呂が依然主流を占めており、最近はサウナ派の伸長も著しい。少数野党の感がある朝風呂愛好家たちの聖地を、寝ぼけ眼で訪ねてみた。

 先月までの暖冬はどこへ行ったのか。息は白く、空も暗い、今月上旬の午前5時50分。車のモニターは5度を表示している。

 江戸時代、薩摩藩の「御前湯」などがあった湯之元温泉(同市東市来町)。その中の一軒、国道3号から少し入った住宅街にたたずむ田之湯温泉に「日本朝風呂党本部」の木札がある。ほのかに硫黄が香る駐車場には、既に6台が駐車していた。

 6時の営業開始5分前に建物に明かりがともると、降車した人たちが吸い込まれていく。番台で払う料金は驚きの150円。次々に「おはようございます」の声がこだまする。

 ひなびた雰囲気なのに、湯気が立ちこめる早朝の浴室は神々しい。真ん中に浴槽(約3メートル四方)がでんと鎮座。壁面に並んだ10組のカラン(蛇口)の他はシャワーが一つあるだけ。いたってシンプルだ。

 単純硫黄泉の源泉は58度。加水加温なしで43度前後になるよう、湯船への流入量を経営者が調整するという。浴槽内は仕切りで二分され、湯口のある奥が熱め、手前が適温とされるが、正直手前でも熱め、奥はかなり熱めに感じた。湯船につかってリラックスするというよりも、じっと我慢して体が覚醒する感じだ。

 「今日は寒いからか少ーしぬるめ」。奥に入った常連の上村静好さん(83)がそう言うと、初めて来たという男性(19)が手前側で目を丸くしていた。「熱いのにしゃっと入ったら、朝の目覚めにちょうどいい」と上村さん。たとえ源泉掛け流しでも、やっぱり一番風呂は違うという。

    ◇    ◇

 「朝風呂こそ健康の源泉、日本躍進の活力の元なり」

 すっかり眠気は吹き飛んで着替えていると、男湯の脱衣場に堂々と掲げられた「日本朝風呂党立党宣言」が目に飛び込んできた。

 1978年に「立党」され、「総裁」は薩摩焼宗家で昨年亡くなった14代沈寿官さん。16世紀末の豊臣秀吉の朝鮮出兵の際、朝鮮半島から連れてこられた朝鮮陶工の末裔(まつえい)。日韓の懸け橋としても尽力した人だ。朝風呂の効用から世界平和をうたう洒脱(しゃだつ)な文に、沈寿官さんの人柄がにじみ出ている。実際、気さくな方だったという。

 政治的駆け引きは一切なし。さまざまな職種の「党員」たちが、朝な朝な党則通りに前も隠さず語らい合う光景が目に浮かぶ。

 党則もあり、その1番目は「焼酎1合サラサラと飲む(み)ほすべし」。幹事長や婦人部長などに加え、宴会部長の役職もあったそう。往事の党員たちは早朝に交流してから仕事に汗し、夜は「飲ん方」にいそしんだという。もちろん世界平和という名目で。

 環境省の統計では、鹿児島県は温泉を利用する公衆浴場が543(2018年3月末)あり、長野県に次いで多い。「朝風呂会」は各地域にあれど、立党するほど志に燃えた風呂はほかになかっただろう。

 最盛期は数十人を数えた党員も、現在も集うのは5人ほど。元中学校教諭の上村さんもその一人で、「ぼやっとしとっちゃいかん」と、その日はシイタケのほだ木づくりに精を出すという。

 夜は明けたばかり。街中で気軽に朝風呂に入れるのは、温泉地ならではの恵みだと実感。少し得した気分で建物を後にした。

◆朝風呂メモ 田之湯温泉は1962年創業。2代目経営者の秋嶺健さん(72)、定子さん(71)夫婦は夜風呂派だとか。営業は午前6時から午後10時。大人150円、小学生以下50円。第2火曜日定休。起床後の水分補給と、冬場はヒートショックにもご注意を。 (河野大介)

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