ハラスメント被害も…就職氷河期、非正規シングルマザーの困窮

西日本新聞 くらし面 河野 賢治

 バブル崩壊を受けた「就職氷河期」に社会に出た非正規雇用のシングルマザーの多くが、生活に苦しみながら子育てを続けている。新卒当時は就職難で、出産後は育児との兼ね合いで職種が限られ、正規雇用がかなわなかった。国が就労支援を打ち出す30代後半~40代の就職氷河期世代の中でも、仕事や子育て、老後の不安を強く感じている。

 「非正規。金銭的に余裕ない→転職に不利」

 「ワーキングプアは子の教育に影響→子も貧困」

 福岡市の女性(45)は時折、思いをノートに書く。息子(11)を1人で育てる有期契約社員。経験してきたことを記すという。

 大学在学中に数十社の採用試験を受けたが、内定は出なかった。卒業後は有期雇用の食品工場など、非正規の職を転々としている。

 30代の頃、男性と交際し妊娠。パート先で正規雇用の誘いを受けていた。「正社員になって育児と両立できるだろうか」。仕事か家庭か。悩んだ末に子どもを選び、結婚して退社した。

 だが、出産1カ月前に男性とは連絡が取れなくなった。結婚相手は姿を消した。

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 実家に戻って子を生んだ後、憤りと不安で息切れが続き、パニック障害と診断された。離婚はできたものの、親に交際を夜中までとがめられた。パートを辞め、息子と家を出た。

 今は有期社員。毎月、11万円弱の給料と4万円弱の児童扶養手当で暮らす。家賃や教育費がかさみ、テレビは持たず自分の服や化粧品はほぼ買わない。費用の安い保険にしか入らず、体を壊すのが怖い。

 「すぐ決まる仕事はずっと非正規だけで、正社員の話は出産や育児で断るしかなかった。これから子どもにお金がかかるけど、収入を増やすのはもう難しい」

 総務省の集計では、未婚だったり、配偶者と離婚や死別したりした35~44歳の単身女性のうち、非正規労働者は67万人(2019年)に上る。統計がある13~18年は70万~80万人。シングルマザーも含まれ、正規雇用の難しさが浮かぶ。

 背景には就職氷河期の採用控えに加え、同じ時期に進んだ労働政策の規制緩和がある。1990年代以降の労働者派遣法改正で派遣労働の対象業務が増え、企業は有期雇用も拡大。非正規雇用が増えていった。

 福岡女子大の野依智子教授(ジェンダー史)は「高度経済成長期に賃金上昇が求められる中、男性の給料で一家が扶養されるという『家族賃金』が広まり、女性の給料は家計補助的賃金となった。こうした男女の格差の上、労働政策の規制緩和による非正規雇用の増加は、非正規の単身女性やシングルマザーが貧困と隣り合わせであることを浮き彫りにした」と語る。

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 時代の波に加え、シングルマザーは育児のためフルタイムでの勤務が難しく、採用で不利になりがちだ。ハラスメント被害もある。

 福岡市の女性(38)は短大を卒業後、ほとんどの期間を非正規で働いてきた。正社員になれた数少ない会社では男性上司に体を抱きしめると言われたり、パワハラを受けたりした。心労で体調を崩し、退社した。

 今はパートで働き、未婚で生んだ娘(7)を育てる。月々の収入は給料と児童扶養手当で計11万円ほど。「正社員がいいけど、もう次の面接に行くのが怖い。正社員を長く続けられるようにしてほしい」

 出産前に夫が姿を消した先の女性も、同僚に仕事を押し付けられる。「母子家庭で困窮していると、荒っぽい扱いをしても辞めないだろうと思われる。でも、解雇は困るから懸命に働くしかない」

 将来の不安も大きい。福岡県の別の女性(38)は非正規で30社以上に勤め、国民年金保険料の未納がある。離婚して息子を1人で育てており「今の生活で精いっぱい。老後は心配だけど、どうしようもない」。

 出産による退職で途切れるキャリア。結婚している間、収入を抑えて働いた方が税金や社会保障の負担が軽くなる制度。シングルマザーの困窮は、女性が十分な職歴を積みにくい社会環境も大きな要因だ。

 母子家庭を支援するNPO法人「しんぐるまざあず・ふぉーらむ・福岡」(同市)の大戸はるみ理事長は「事業主は雇用と収入を安定させ、行政は子どもが病気になった際の病児保育や看護休暇などの支援を手厚くすることが必要になる。何より子どもが病気の時、心置きなく看病できることが理想。シングルマザーが生計を立てる難しさを理解してほしい」と語る。 (編集委員・河野賢治)

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