カンボジア優遇関税「一部停止」 経済影響、最悪は回避

西日本新聞 国際面 川合 秀紀

 欧州連合(EU)の輸出優遇措置(EBA)停止は、カンボジア政権内でも既定路線。焦点は全面的な停止か、一部停止にとどまるか、だった。

 「EBAを完全に失うのか、一部を失うのかを私は見ている」。決定直前の10日、フン・セン首相はプノンペンでこう述べた。「完全にEBAをやめるなら、EUが今後、人権や民主主義について私たちに語る権利はなくなる」。EBA全面停止ならさらに弾圧を進めると脅すかのような言い回しは、それだけ経済への悪影響を懸念している表れだったといえる。

 EUはカンボジアにとって輸出額の4割以上を占める最大市場で、その7割以上が衣料品。EBAの恩恵を狙ってラルフローレンやアディダス、プーマなど多くの有名ブランドが主要工場をカンボジアに置き、近年の好調な経済成長と国内雇用をもたらした。

 国際通貨基金(IMF)は昨年末、EBA全面停止の場合は▽国内総生産(GDP)成長率が現状の半分近い3ポイント減▽縫製関連の輸出10%減▽縫製業の雇用6%減-との試算を示し、消費や投資など「悪影響は広範囲に及ぶ」と警告したが、今回の優遇停止対象は衣料品の一部を含め輸出品の20%どまり。EUが全面停止の甚大な影響を考慮したためだ。

 フン・セン政権は昨年11月までに、国家反逆罪に問われた元最大野党指導者の自宅軟禁を解いたり、拘束された多くの民主活動家らを釈放したりし、改善努力をアピールした。ただ、解党した元最大野党の復活や指導者の恩赦といったEUの要求は突っぱねたまま。海外逃亡中の同野党幹部は取材に「(一部停止は)『ソフト外交路線』にすぎず、弾圧が続いてしまう」と不満を漏らした。EUに次ぐ輸出先の米国政府も強硬路線を取るとみられたが、最近は政権批判をトーンダウンしている。

 フン・セン氏が強気でいられるのは、最大の投資相手国、中国が後ろ盾になっているからに他ならない。EBA停止を見据え、政権は昨年12月、中国と自由貿易協定(FTA)締結に向けた協議を開始。新型コロナウイルスを巡ってもフン・セン氏は中国との航空路線停止を認めず、今月には急きょ北京を訪れ首脳会談を行った。

 新潟国際情報大の山田裕史准教授は一連の動きを「いかに中国を重視し、EBA停止後の影響を中国のさらなる投資と援助で乗り切ろうとしているかを示しており、対中傾斜は今後さらに進む」と分析。その上で「政権最大の課題は体制維持であり、野党などの統制は続く」と話す。 (バンコク川合秀紀)

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