「絶滅した動物の復活」から生命倫理と自然のあり方を考える

西日本新聞

 ディ・エクスティンクション。聞き慣れない言葉だが、絶滅(extinction)を覆す(de-)、つまり絶滅した種を復活させるという意味で、本書は真正面からこのテーマに取り組んでいる。最新の遺伝子科学を持ってすれば、DNAなど遺伝情報が手に入れば、絶滅した生物でも甦らせることができるというわけだ。ただし、かつてシベリアの大地を闊歩していたマンモスを完全に復活させることは不可能である。なぜなら完全な状態で保存されたマンモスの細胞を手に入れることができないからだ。しかし、ディ・エクスティンクションには、絶滅危惧種を救済するという現実味のある試みもあるという。

 それは、こういうことだ。ある種が絶滅の危機に瀕している場合、その種がリスクに対して脆弱になっている理由を遺伝情報の分析で明らかにする。さらに、脆弱性を緩和するように遺伝子情報の編集を施す。例えば、伝染病にかかることが原因で絶滅に瀕している種があれば、ウィルスに対する耐性を持つ遺伝子を組み込むことで病気になりにくくするのだ。

 このようなディ・エクスティンクションの試みには、大きく分けて2つの論点があるだろう。1つは、絶滅をくい止めることが生態系にどのような影響を与えるかである。ある種が生態系から消え去るということは、その種が担っていた生態系の中での役割が果たせなくなることなので、生態系の機能全体を維持することにつながると考えられる。一方、生態系に与える負の影響もあるわけで、功罪両面から考察されなければならない。2つ目は、種の絶滅と人類との関わりである。種の絶滅には人間の活動が大きく影響していることが少なくない。人間が絶滅を招いた事実を帳消しにするのは、よいことなのかどうか、人間の営みと自然のあり方を科学的、倫理的に問う大きな課題だろう。

 遺伝子編集などの技術を駆使しても、絶滅した種を完全に復元することができないという。だから、いくらディ・エクスティンクションの技術が発展しようと「種の絶滅」を軽く考えてもよいということにはつながらない。一方で、絶滅の危機に瀕している種を救う新しい手立ても登場していること、絶滅した種とよく似たものを遺伝子編集で作ることは可能になりつつある。本書は、遺伝子に関わる科学技術と生命との関わり、そして自然界と人間との関わりを考える、多くの問題を提起している好著である。

 

出版社:双葉社
書名:絶滅動物は甦らせるべきか?
著者名:ブリット・レイ/ 高取芳彦 訳
定価(税込):2,200円
税別価格:2,000円
リンク先:https://www.futabasha.co.jp/booksdb/book/bookview/978-4-575-31525-7.html

西日本新聞 読書案内編集部

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