きっかけは娘のがん…届いた母の思い ネット署名で動いた自治体

西日本新聞 くらし面 新西 ましほ

 職場でのパンプスやヒールの強制に反対する「♯KuToo」や、不合理な「ブラック校則」の撤廃運動-。インターネットで広がり、社会の関心を集めた近年の運動で一役買っているのが署名サイト「Change.org」(チェンジ・ドット・オーグ)だ。いつでもどこでも気軽に参加でき、短期間で多くの賛同を集めやすいことから、活用の幅が広がっている。

 「声を上げれば社会は変わる、政治も動くんだと実感した」と振り返るのは、東京都北区の江田麗奈さん(37)。2018年12月、がん治療などのため予防接種の効果が期待できなくなった子どもたちに、再接種費用の助成を求める署名活動を始めた。

 きっかけは小学2年の娘が小児がんと診断されたこと。骨髄移植などを受けると、過去のワクチンで得た免疫の効果が失われる恐れがあり、再接種が必要と知った。定期接種は公費負担で無料だが、再接種は自己負担で20万円ほどかかるという。

 江田さんは、翌年2月にネットと書面で集めた署名約1万3千人分を区に提出。「8人の子育て中で、双子を妊娠もしていた。仕事をしながらだけど、多くの声を集めることができた」と振り返る。区は4月から助成制度を導入。秋には、地域にかかわらず助成を受けられるよう求める署名も始まり、同様の制度を設ける自治体も増えてきた。福岡県も新年度からの助成開始を目指している。

 米国発のこのサイトは12年に日本版がスタートし、利用者数は200万人を超える。名前とメールアドレスを入力してアカウントを作れば、誰でも署名活動を始められ、賛同の署名もできる。差別やプライバシーの侵害に当たるものは投稿できない。

 横浜市の末永恵理さん(40)も国や企業を動かした。14年に長女を出産し授乳に苦労した体験から、海外で一般的な液体ミルクが国内でも製造できるようにと始めた。「熊本地震の被災地でミルク用の水を確保するのに苦労した、双子の育児で大変、など切実な声が寄せられ、署名提出で終わっちゃ駄目だと思った」

 国やメーカーに何度も足を運び、講演もした。国は法律を整え、昨年3月に液体ミルクの販売が始まった。6月に次女を出産した末永さんは「夜中や外出先での授乳が本当に楽になった。声を上げてよかった」と話す。

 ネット署名なら時間や場所を選ばず誰もが参加できる。九州在住の女性は2年前、配偶者と死別・離別したひとり親の税金が軽減される「寡婦控除」を未婚のひとり親にも適用するよう求めるキャンペーンを開始。約2万6千筆が集まった。20年度の税制改正で適用されることになった。

 同サイト日本事業統括の武村若葉さんは「子育て中の女性など、時間の制約があったり組織の後ろ盾がなかったりで声を上げにくかった人たちが、ネット署名という形で発信し、社会の中で見過ごされてきた問題を可視化している」と指摘する。大学生が休学費用の減額を求めた署名など、数百筆でも制度が変わった例もあるという。

 武村さんは「『これっておかしいよね』と心の中で思っていても社会は変わらない。まずは声を上げてみてほしい」と話している。 (新西ましほ)

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