不登校の自分を支えた演劇…次は子どもたちへ 指導続ける男性の思い

西日本新聞 ふくおか都市圏版 今井 知可子

 「良かったね」と褒められて、「これで良かったんだ」と自信が満ちていく。そんな瞬間を誰かと分け合えるのが演劇の魅力。森隆さん(51)=福岡県糸島市前原中央=はフリースクールで10年以上、演劇指導を続ける。不登校の背景は一人一人違うので、本人の気持ちは分からない。でも寄り添うことはできる。不登校の自分を支えた演劇を通じて、子どもたちと対話する。

 冬の午後、穏やかな日だまりの中で授業が始まっていた。演じる人物や場面をくじ引きで決め、即興劇を作る。「えー、ジャイアント馬場ってどんなしゃべり方すると?」「十六文キックだよ」「それ何?」。生徒たちはにぎやかに話しながら、その場でせりふを考えて数分の寸劇を演じてみせる。フリースクール玄海(古賀市庄)で週1回行われる授業の様子だ。

 年末に家族を招いて発表会を開くのが恒例だ。フリースクールは男子だけなので、宗像市の劇団「むなかたミュージカルメイツ」の女子生徒たちが客演する。舞台慣れした彼女たちの声量や動きの迫力に、生徒たちは「あの子たちうまい。俺たちヤバくない?」と焦り、つられて大きな声を出せるようになる。

 昨年末の発表会の演目は、落語を題材にした「芝浜」と、アニメでおなじみの「ポパイ」。ちょっと駄目な主人公が他者との交流で変わっていく演題を選ぶようにしている。「達成感を得ることで前に進める。自分がそうでしたから」

 森さんは小学生の頃、なぜ学校に行くのか分からなくなり休みがちに。「何で来んかったと?」と友達に聞かれ、さらに行きづらくなる。

 小4の学芸会で、昔話「絵すがた女房」の威張った殿様役を演じることになった。母がよく見ていた時代劇の悪代官をイメージして、思いっきり憎らしい演技をした。「良かったよ」と周囲から褒められ、誇らしい気持ちになれた。

 不登校気味ながら高校まで通い、演劇を志して上京。一人で働いて育ててくれた母は猛反対したが、押し切って飛び出した。

 都会での1人暮らしに押しつぶされそうなとき、心を支えてくれたのは母からの手紙。貧しさで学校に行けなかったという母の、平仮名だけの手紙を何度も読み返した。

 28歳で福岡に戻り、障害者支援の仕事に就いた。演劇も続けているが、最近は指導が面白くなった。「やってみたいけど勇気がないという子を、どう引き込むか」。内向きだったかつての自分を励ますような気持ちで、将来を手探りする子どもたちを見守る。 (今井知可子)

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