宮崎県出身の旅の歌人、若山牧水。とりわけ愛したのが鉄道の旅である…

西日本新聞 オピニオン面

 宮崎県出身の旅の歌人、若山牧水。とりわけ愛したのが鉄道の旅である。窓際に寄り掛かって物思いにふける。腰が痛くなると鉄道案内の冊子を繰り、適当な駅を探して途中下車した

▼歌によく出る言葉が「汽車」。一首を引く。<峡(かい)縫ひてわが汽車走る梅雨晴の雲さはなれや吉備の山々>。梅雨晴れの岡山の山々を縫って私の汽車は走る。時折、山の眺めをさえぎる雲もいいものだとの意。鉄道と山と雲が織りなすパノラマの景色が浮かぶ

▼こちらの鉄道は厚い雲に覆われたままのようだ。2017年7月の九州豪雨で被災したJR日田彦山線。添田(福岡県添田町)-夜明(大分県日田市)間で不通が続く。JR九州と沿線自治体トップの会議では、鉄道復旧にこだわる福岡県東峰村の孤立が浮き彫りになった

▼確かにJRが推すバス高速輸送システム(BRT)導入は、採算性や路線の持続性を考えると現実的な策だろう。だが、鉄道は人口減にあえぐ地域の最後の命綱。鉄路での復旧を望む住民の気持ちも分かる

▼同僚が地元の方からこんな話を聞いた。日田彦山線のそば。1人で農業を営む高齢の女性がいた。列車は女性の時計代わり。夕方の列車が通過すると帰り支度をしていたが、運行が途絶えた。寂しさを覚えた女性は農業をやめたそうだ

▼その女性に聞かせたい牧水の歌がある。<くろぐろと汽車こそ走れ秋の日のその長き汽車のあとに立つ風>

PR

春秋(オピニオン) アクセスランキング

PR

注目のテーマ