聞き書き「一歩も退かんど」(85)冤罪オールスターズ 志布志事件冤罪被害者 川畑幸夫さん

西日本新聞 オピニオン面 鶴丸 哲雄

 踏み字裁判に歯を食いしばって勝利したことで、私の人生は大きく変わりました。冤罪(えんざい)に苦しむ人からSOSが届くと、全国のどこにでも駆けつけます。可視化推進のシンポジウムや集会には数え切れないほど出席し、衆議院での可視化議連にも呼ばれました。

 中でも大きな転機になったのが、2009年12月6日、鹿児島県志布志市で開かれた「取り調べの全面可視化を求める市民集会」。全国でも名だたる冤罪事件の当事者がパネリストとして集合しました。いわば冤罪被害者オールスターズですね。その一人として、私にも声が掛かったのです。

 登壇者はまず、足利事件の菅家利和さん。女児殺害事件で無期懲役が確定しますが、DNAの再鑑定で無実が証明されました。次は氷見(ひみ)事件の柳原浩さん。強姦(ごうかん)事件で懲役3年の刑に服しますが、出所後に真犯人が現れました。続いて甲山(かぶとやま)事件の山田悦子さん。知的障害児の殺害容疑をかけられ、21年に及ぶ裁判で無罪が証明されました。

 そして、この日から生涯の盟友と言える間柄になったのが、布川(ふかわ)事件の桜井昌司(しょうじ)さんです。強盗殺人罪で無期懲役刑を受けますが、仮出所後に再審請求して無罪を勝ち取る目前でした。

 志布志事件発生の地とあって会場の市民会館には800人が詰めかけました。私たちは密室での取り調べのひどさを語りました。

 菅家さんは「髪を引っ張られ足を蹴られる。いくら『やっていない』と言っても、『おまえは黒だ』と言われ、あきらめから自白しました」。柳原さんは「怒鳴り声が頭に響き、夜も眠れなくなるほど。とにかく取り調べから逃げたくて、牛乳に除草剤を入れて飲みました」と明かしました。

 桜井さんと山田さんは、被疑者の権利である黙秘権を貫くことの難しさも語りました。「無実を信じてもらえないことは、とても苦しい。だから説明すると、取調官は逆にそこを突いてきました」(桜井さん)

 私は一部可視化では意味がないと強調しました。「取り調べの一部だけ録画すればよいなら、捜査側に都合の悪い部分は全部隠されます。絶対に全面可視化を実現すべきです」と訴え、取り調べへの弁護士の立ち会いも求めました。

 その夜の懇親会は大いに盛り上がりました。同じ苦しみを味わった「戦友」同士ですからね。次回からは、その戦友たちとの関わりをお話しします。 (聞き手 鶴丸哲雄)

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