もっと多くの人生を 片渕監督「この世界の片隅に」に新カット追加

西日本新聞 根井 輝雄

 広島県呉市を舞台に、戦中・戦後の暮らしを描いたアニメ映画「この世界の片隅に」(こうの史代原作)は2016年の公開後、大ヒットしました。昨年末から、250カット以上の新たな場面を盛り込んだ「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」が公開。監督・脚本の片渕須直さんに、新作への思いを聞きました。

 -前作がヒットしたのは、なぜたったのでしょう。

 ★片渕 広島から呉にお嫁に行った主人公の北條すずが“普通の人”で、それが受け入れられたと思います。アニメーションですが、本当に実在する人として描こう、と心掛けました。

 -新作では、戦中・戦後の日常生活を細かく描いています。

 ★片渕 本当にいた人だと、ずっと暮らしていた日々がある。そこから何日間かをピックアップしたのが前作。そして、その間に何があったか、何を考えていたか、と描き足したのが今回の映画です。一人の人間は一本の映画で描き切れない。“キャラクター”ならいいけど、実在しているイメージだと、いろんな側面がある。それで、同じような話でも別の面を持ったすずが現れる、という形にしました。内緒話を打ち明けた、みたいな。

 -「さらにいくつもの」というタイトルに込めた意味は?

 ★片渕 前作と違うすずの日常が描かれ、すず以外の人生も描かれます。もっと多くの人生が広がっています。映画に描かれていない部分も、観客の方々に興味を持っていただけるとありがたいです。戦時中に何があったのか知りたい、と思ってもらえれば。だから、観客のおじいさん、おばあさんの人生も含まれます。

 -遊郭のシーンも登場します。

 ★片渕 すずが呉に来たとき、同い年の友人がいなかった。やっと見つけたのが遊郭で見掛けた白木リンで、心の触れ合いが始まります。リンもすずにいろいろな思いがありました。特別な環境にいるリンは、世の中を見る目がはっきりしていて、人生について考えている。リンやすずが参加したお花見のシーンは、呉に空襲があった次の場面。リンは「自分が死ぬときは一人で死にたい」と言う。すずがまだ「死」を意識せず、戦争が頭の上で繰り広げられた時期です。それだけリンは普通ではない生活を送っていた。同じ遊郭で働くテルちゃんも、今回満を持して登場させました。

 -前作は3年間、全国どこかの映画館での上映が続きました。

 ★片渕 映画館の方々に応援していただきました。シネコンも、街の映画館も。音の聞こえ方や空間の広がりなど、映画館ごとに個性があって面白い。それで皆さんが全国の映画館に足を運ばれるようになりました。

 -観客の反応はどうですか。

 ★片渕 サイン会で時々、介護職の方と話すと、戦争中に何を食べていたか、掃除をどうしていたか、と高齢者に聞くことで、当時を思い出すきっかけにもなる、とおっしゃってくれます。空襲の話は聞いても、日常生活はなかなか聞かないですからね。

 -それをアニメで描く意味は?

 ★片渕 アニメは一度、絵にするので、のみ込みやすい、単にご飯が画面に映るだけでなく、手で描いたご飯だと注目されやすい。兵器とかは実写でもいいでしょうが、日常を描くのはアニメの方が力を発揮できると思います。

 -映画は福岡県とも関係があるそうですね。

 ★片渕 全編が広島弁なんですが、遊郭にいるテルちゃんは、福岡県出身の設定です。今回、飯塚の方に言葉を教わりました。だから福岡はもう一つのご当地です。

 -長崎の原爆については…。

 ★片渕 父親が佐賀県有明町(現白石町)出身で、1933(昭和8)年生まれ。国民学校6年生のとき、友達と外を歩いていたら、遠くでキノコ雲を見た。そして窓ガラスが揺れた、と言っていました。親の体験として、長崎の原爆への思いも、映画製作の最初からありました。

 -次回作の構想は。

 ★片渕 70年前の戦争とその心の中をのぞく作品を描けたので、もっと離れた時代の人の心を描きたいです。1000年前とか。 (文と写真・根井輝雄)

 ▼かたぶち・すなお 1960年、大阪府出身。日大芸術学部映画学科でアニメーションを専攻し、宮崎駿監督の「魔女の宅急便」で演出補を務める。テレビシリーズ「名犬ラッシー」で監督デビュー。前作「この世界の片隅に」は観客数210万人、興行収入27億円に上っている。

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