セールを援助と訳す不思議

西日本新聞 オピニオン面 永田 健

 sale(セール)という英単語を辞書で引くと「販売」「売却」などの訳語が載っている。「特売」「大安売り」の意味もある。セールスマンとは「販売員」のことであり、ほぼ日本語化している。

 このsaleに「援助」という妙な日本語訳を付けているのが日本政府だ。

 防衛予算に出てくる「フォーリン・ミリタリー・セールズ(FMS)」はもともと米国が使う用語で、単純に訳せば「対外軍事販売」だ。政府はこれを公式文書などで「有償援助」などと訳して説明している。

 図書館で分厚い辞書を繰った。研究社の新英和大辞典(第6版)はsaleに18語の訳を掲載している。しかし「援助」は出てこない。そもそもセールが援助なら、セールスマンは「援助者」になってしまう。

 なぜこんな不思議な訳を付けているのか。

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 FMSは日本が米国から兵器を購入する仕組みの一形態だ。米政府が窓口で、対象が米国の同盟国などに絞られているのが特色。最新鋭兵器を購入できる利点がある。日本側が「有償援助」と呼ぶのは「有償で援助を受けている」と位置付けているからだ。

 しかし問題も多い。取引の主導権を完全に米国側が握っているのだ。

 価格は米側の見積もりに基づくが、軍事機密の壁があり、見積もりが妥当か、もっと安くならないのかを日本側が検証するのが難しい。事実上米側の「言い値」になっている。

 さらに米側による納期の遅れもしばしば生じている。昨年10月に会計検査院が公表した報告書では、米政府と契約して代金を払ったのに納期を過ぎても兵器が納入されないケースが2017年度末時点で85件、349億円に上っていた。

 売るのは「言い値」、納期は守らない。そんな高飛車な取引を米国に許しているのがFMSである。

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 安倍晋三政権になってから、このFMSによる米国からの兵器購入が激増している。安倍氏が政権に復帰する前に組まれた12年度予算では、FMSによる装備品(兵器)調達額は1365億円だった。それが19年度では7013億円に達した。20年度も4713億円の高止まりである。

 ここ数年の安倍政権によるFMSでの「爆買い」は、兵器の輸出を増やして米国経済浮揚のエンジンとしたいトランプ米大統領の意向に沿っている。

 米国から兵器を買うことで、トランプ大統領による日本車の関税引き上げの圧力をかわす安倍政権の戦術だという解説もある。だが、トランプ氏は車関税引き上げのカードを捨てないだろうから、いつまでも高額な米国製兵器を大量に買わされることになる。

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 最初の訳語の話に戻れば、FMSは米側から見ればあくまでもセール、つまり販売行為なのである。それに「援助」などという訳語を付けて、自ら「米国に援助してもらっている」とありがたがっているのが日本政府の姿だ。

 今年、日米安保条約は改定60年を迎えた。安倍首相は「安保条約は世界の平和を守り繁栄を保証する不動の柱」とたたえる。しかし「セール=援助」の不自然な訳語が日米同盟のいびつな実像を映し出している。

 (特別論説委員・永田健)

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