刑法犯最少更新 統計と実感の落差に目を

西日本新聞 オピニオン面

 刑法犯の認知件数は戦後最少でも、治安が改善したと感じる市民は3割に満たない-。警察庁が2019年の犯罪情勢について、こんな分析をまとめた。

 近年の犯罪は、市民が日常的に利用するインターネット空間で多発し、子どもが狙われる事件も目立つなど、手口の悪質・巧妙化が際立っている。それを踏まえて同庁が昨秋、全国の1万人を対象にアンケートを実施した結果、統計と市民の実感との「落差」があぶりだされた。

 警察による取り締まりの強化はもちろん必要だ。加えて、社会全体でこうした現状を深刻に受け止め、いま一度、防犯対策の推進を図りたい。

 同庁によると、19年に認知した刑法犯は74万8559件(前年比6万8779件減)と、5年連続で戦後最少を更新した。防犯カメラなどの普及もあって家屋への侵入盗や街頭での粗暴犯はピーク時の5分の1にとどまるなど、目に付きやすい犯罪は大きく減少している。

 他方、ネットやコンピューター技術を悪用したサイバー犯罪は後を絶たず、摘発は9542件と過去最多を更新した。会員制交流サイト(SNS)を通じて性被害などに遭った子どもは2095人と初めて2千人を超えた。これらは匿名性が高く、被害が見えにくいのが特徴だ。

 やはり潜在化しやすい児童虐待や配偶者間の暴力、ストーカー行為、高齢者らを狙う特殊詐欺などの摘発や相談件数も、過去最多あるいは高水準で推移している。これに伴い日常生活で不安を感じる人は増えているとみられ、アンケートで61・4%が「治安はよくなっていない」と回答し「よくなっている」の28・9%を大きく上回った。

 実際、回答した人の3割はサイバー犯罪で、1割は特殊詐欺で、過去1年に被害に遭いそうな経験をしたという。事件に巻き込まれた人も相当な数いた。

 警察庁はこの結果から、統計に表れない現実の犯罪情勢は「予断を許さない」と分析し、関係機関と緊密に連携した捜査、国民への迅速な注意喚起、相談体制の充実などを図る方針を打ち出している。

 犯人と被害者が顔を合わせないネット上での非対面型犯罪などは手口が多様化し、摘発が難しいのも実情だ。被害防止のためには、市民一人一人が防犯意識を高め、地域社会や学校教育の場などでも繰り返し、犯罪に関する情報の周知や啓発を進めることが肝要だろう。

 開幕まで半年を切った東京五輪・パラリンピックは、日本が世界に向けて「治安のよさ」をアピールする場でもある。その意義も見据えながら、取り組みの輪を広げていきたい。

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