感染防止へ「水際作戦」私たちも 地域で弱者守る 手洗いは頻繫に

西日本新聞 くらし面 長谷川 彰

 新型コロナウイルスの国内感染が徐々に広がり医師や看護師にも波及する中、医療現場は危機感を募らせている。人工透析患者を多く治療している開業医を訪ね、今、私たちが感染防止のために地域でできることを考えた。

 和歌山県の病院で医師の感染が明らかになって間もない、平日の午後。福岡県柳川市の村石循環器科・内科の透析室では、ずらりと並んだベッドの上で患者たちが透析を受けていた。70人が週3回、通院しているという。

 村石昭彦院長は「毎年この時季はインフルエンザ対策に神経を使っているが、今年は未知の新型コロナウイルスのリスクまで加わって、内心、気が気ではない」と話す。

 村石院長は、この地で20年以上、地域医療に向き合う傍ら、福岡県透析医会の理事と感染症対策委員も務める。かつて、米国の研究所で遺伝子治療の研究に携わった際、さまざまなウイルスを取り扱った経験もあるという。

 「私はウイルス学の専門家ではないが、新型コロナウイルスに関しては、今は『正確にはよく分かっていない、ということが分かった段階』と受け止めて対応を考えている」と表情を引き締める。

 確かに、例えば発熱など症状が出ていない感染者から他人に感染するかについて、厚生労働省の一般向けホームページ情報は「現状では、まだ確実なことは分かっていません」(17日時点)。村石院長の認識は妥当だろう。

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 今回のウイルスは、感染力や毒性を巡り、インフルなど他の感染症との比較で健康な人の多くは軽症で済む-といった専門家の指摘もある。

 ただ、村石院長が強調するのは、楽観から一定程度の感染を容認する考えが広まり予防行動がルーズになると、透析患者など「健康的にとても弱いみなさん」がさらされるリスクが結果として高まってしまう、という懸念だ。

 村石院長によると、透析患者は全国に約32万人いるという。福岡県の場合、透析患者約1万6千人の45%が75歳以上の後期高齢者。要介護度も高く、その半数は送迎の介助がないと通院できないのが現実という。しかも、週3回の透析治療が不可欠なので、感染症の流行期に「不要不急の外出を控え、自宅で安静に過ごす」となると、命をつなげなくなってしまう。

 万が一、患者や付き添い家族の誰かが一人でも新型コロナウイルスに感染し、自分で気付かないうちに透析室に持ち込んでしまえば「一気に拡大し、最弱者の患者さんはクルーズ船の比ではない危険にさらされてしまう」。

 事実上の病院閉鎖となれば透析患者は「行き場を失ってしまう恐れが強い」とも。透析医のネットワークで協力体制はあるが、普段でさえ一度に数十人の受け入れ先を即座に手配するのは難しいのに、新型ウイルスの感染リスクがある透析患者となれば、なおさら-というわけだ。

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 村石院長は例年、インフル流行期には、透析患者と一般外来患者の出入り口を完全に別にして、患者の動線が交わらないよう徹底するなど対策を講じているが、「未知のリスクが現れた以上、患者さんや家族に感染させないよう、地域の人に、これまで以上の予防行動に力を入れてほしい」と呼び掛ける。

 現場での体験や実践を基に提案するのは、主に次のようなことだ。

 ▼手洗いは、推奨されているようにせっけんを使い「入念」にできれば望ましいが、むしろ流水で数秒間でもいいから「頻繁」に。外出から戻った時や3度の食事の前だけでなく、職場などで間食したり、お茶やコーヒーで一服したりする前にも手洗いを。

 ▼手洗いの際に顔も洗ってほしい。ウイルスが体内に侵入する主な入り口の口、鼻、目に近い場所を入念でなくていいので水洗いし、できれば眼鏡も一緒に。

 ▼帰宅したら、晩ご飯より先にまずシャワーを浴びると、家庭内への持ち込みリスクを下げられる。

 ▼マスクは、常時着けっぱなしだと雑菌を増やしてしまう恐れもあるが、混んだ電車やバス、人混みの中では、他人のせきやくしゃみによる飛沫(ひまつ)への物理的なバリアーになる。また、人は自分が意識している以上に顔を手で触っているので、それを防ぐ心理的バリアーにもなる。

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 なんだ、その程度のことかとか、そんな面倒なことを、などと一笑に付す人もいるかもしれない。それらの効果はデータで科学的に裏付けられているのか、といった反論もあろう。

 村石院長も「そんな反応は百も承知だし、体内に取り込まれるウイルスをゼロにすることも不可能。でも当面できることは、ウイルスの体内侵入をできるだけ減らす、個々人の水際作戦の積み重ねしかないでしょう」と話す。

 その上で「百点満点でなくても70点、50点の予防行動でいい。みなさんにこれまで以上に取り組んでもらえれば、地域全体、社会全体のリスクが掛け算で下がっていく」として「健康な人が予防に努めれば、自分を守るだけでなく、介護の現場なども含め『健康的に弱いみなさん』を守ることになり、社会の安心感につながる。そう思いませんか」と問い掛ける。

 これらの提案は、社会生活を停滞させる恐れがあるほど極端な内容ではないし、健康面で別の重大な悪影響を招くわけでもなさそうだ。新型ウイルスの正体を踏まえた最適な予防策が確定しているわけではない以上、傾聴に値しよう。言わずもがなだが、今なお死亡者が出ているインフル対策にも有効なはずだ。(特別編集委員・長谷川彰)

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 新型コロナウイルスに関する厚生労働省の電話相談窓口は現在、通話無料のフリーダイヤルに切り替えられている。番号は(0120)565653。受付時間は土日、祝日も含め午前9時から午後9時まで。

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