「MaaS」地域交通の鍵に 運転手不足対応や過疎地観光へ模索続く

西日本新聞 総合面 布谷 真基

 航空や鉄道から貸自転車まで、多種多様な交通手段を情報技術(IT)で統合する次世代移動サービス「MaaS(マース)」が各地で始動している。運転手不足やマイカーの普及で交通機関が先細る一方、高齢化に伴って地域の交通弱者は増加傾向にある。西日本新聞の取材では九州の15地域でマースが導入済み、または関連の実証実験を予定しており、持続可能な公共交通を目指し模索が続く。

 住宅建設が進み、人口が増えている福岡市東区のアイランドシティ。西日本鉄道(福岡市)は三菱商事(東京)と共同で昨年4月、人工知能(AI)オンデマンドバス「のるーと」(乗客定員8人)を導入した。地区内と大型商業施設、鉄道駅間を乗客のリクエストに応じてAIが効率的な経路を決めて運行している。

 時刻表はなく、午前6時~午後10時に受け付ける。利用者がスマートフォンアプリから目的地を入力すると、近くにある乗車場所が指定され、バスを待つ仕組み。実際に地区内の市立こども病院の前で、3・5キロ離れた千早駅までの配車をリクエストすると、「およそ2分で到着します」の表示。配車から到着までスムーズで、タクシーとバスの中間のような使い心地だ。

 運行時間の無駄や燃料費を抑えられるオンデマンドバス。西鉄グループでは路線バス運転手の労働力不足が約150人に上ることもあり、乗客が比較的少なく、路線維持が難しい地域への拡大を検討する。

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 マースは交通手段が限られる過疎地の観光を救う可能性も秘めている。奄美群島の与論島(鹿児島県与論町)は、年間7万人近い人が訪れる観光地。ただ、島内にはバス1路線、タクシー8台のみで、夏のピーク時は移動需要を満たせない問題を抱えていた。

 解決の糸口となったのは東京のベンチャー企業「Azit(アジット)」が運営するアプリ「CREW(クルー)」。規定の時間帯に利用客が現在地と目的地を入力すると、審査を経て認証された住民が自家用車で送ってくれるサービスだ。客がガソリン代実費とシステム利用料、謝礼を任意で支払う仕組み。国土交通省の通達に沿って運営し、有償旅客運送とはみなされず、道路運送法が禁じる「白タク営業」には当たらないという。

 2018年夏に島内で実証実験を行ったところ、住民ドライバーと客の双方から評価が高く、翌19年から6~10月の観光シーズンに本格導入。ヨロン島観光協会は、観光客のみならず交通弱者となった島民の足としても発展させることも視野に入れる。

 島全体が「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の構成資産である五島列島の久賀島(長崎県五島市)でも昨年春に実証実験を実施。本格導入を目指し検討が進んでいるという。

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 国内初の本格的アプリといわれるのはトヨタ自動車の「my route(マイルート)」だ。西鉄、JR九州と組み昨年11月から福岡、北九州の両市で本格運用を始めた。今年春以降は熊本県水俣市、宮崎市、宮崎県日南市、横浜市の各地にエリアを拡大する。

 マースは関連産業の裾野が広い。いち早く企業連合づくりを進めたのは小田急電鉄(東京)とされ、開発したアプリのデータ基盤を他社に開放することで幅広い事業者が取り組みやすくした。JR九州などは小田急のアプリ「EMot(エモット)」を活用し、大分県由布市で6月ごろからマースの実証実験を行う。

 交通政策に詳しい石田東生(はるお)・筑波大名誉教授は「さまざまな民間の交通機関がいかに連携できるかが重要。そのために行政がリーダーシップを発揮してマースに取り組みやすくなるよう法令を整備するべきだ」と指摘する。 (布谷真基)

 MaaS(マース) モビリティ・アズ・ア・サービスの略。鉄道、バス、タクシー、シェアサイクルといったあらゆる公共交通を情報技術(IT)で切れ目なく統合し、利用者が効率良く便利に使えるようにするシステム。欧州では既に本格的な取り組みが始まり、日本でも鉄道会社や自動車メーカー、IT企業などが中心となって普及が進む。出発地から目的地までの検索機能を前提として、予約や支払いもスマートフォンなどの端末で可能になる。レベルをより高めるため、自動運転車の公道での実用化が鍵を握るとされる。

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