「安楽死も考えた」PTSDや不眠症…夫が高次脳機能障害に、妻の苦悩

西日本新聞 医療面 山下 真

 脳卒中や交通事故などで脳を損傷した人に、記憶力や注意力の低下、感情をコントロールできず怒りっぽくなるなどの後遺症が生じる「高次脳機能障害(高次脳)」について、1月13日付医療面で紹介したところ、読者からさまざまな反響が届いた。家族や当事者の思いを2回に分けて紹介する。 (山下真)

 「もともと明るくて面白い人だったのに…。高次脳になった夫は、キレやすい性格になりました」

 福岡市で暮らす60代女性は切実な思いを寄せた。60代の夫が高次脳となったのは12年前。県外の大学病院で心臓のカテーテル検査を受けた際、脳に血栓が詰まり、脳梗塞を発症したのがきっかけだ。2カ月の入院を経て職場復帰したものの、性格が一変し、ささいなことで声を荒らげるようになった。

 エスカレートしたのは9年前。自室で暴れる夫に「どうしたの」と声を掛けると、頭部を思い切り殴られた。女性が気を失っていた約1時間、夫はただテレビを見ていた。女性は耳が聞こえづらくなり、今も目まいや頭痛に悩み、薬を服用している。

 以後、夫はたびたび手を上げそうになる。女性は夫と2人だけの生活におびえ、心的外傷後ストレス障害(PTSD)や不眠症を発症。「苦しみから逃れたい」と思い詰めるあまり、夫婦でオランダに行き“安楽死”を希望しようと話したこともある。

 夫への周囲の接し方も変わっていった。職場では露骨な嫌がらせや無視をされ、一部の親族も「身内の恥」と遠ざかった。夫に身体障害はないため福祉サービスにはほとんど頼れず、女性は相談できる場がないと感じている。

 記憶障害がある当事者は、悩みや嫌なことも大半は忘れてしまう。一方、共に暮らす家族は心の傷が簡単には癒えない。女性は疲れ切った様子で訴える。

 「長く連れ添った夫の人格が変わったのが一番つらく、結婚生活の記憶をなくしたのが寂しい。世間には家族の苦労をなかなか理解してもらえない。似たような境遇の家族が集まり、気軽に悩みを話し合える場が欲しい」

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