鋳物師育成、伝統の技復興 福岡・芦屋町の「釜の里」

西日本新聞 九州+ 郷 達也

 福岡県北部の響灘に面する芦屋町。人口約1万4千人の小さな町には、全国の茶人が訪れる茶道の一大拠点がある。ふるさと創生事業で国から交付された1億円を原資に整備した茶の文化施設「芦屋釜の里」だ。同事業を契機に、町は約400年前に途絶えた茶の湯釜の名器「芦屋釜」の復興に着手。釜の里に加え、伝統的な鋳造技術を復元、継承しようと町の予算で鋳物師を養成するという珍しい取り組みを進めている。

 芦屋釜は南北朝時代から制作された鋳鉄製の茶の湯釜で、優美な文様と真形(しんなり)と呼ばれる端正な形が特徴。江戸初期ごろに途絶えたが芸術性や技術力への評価は今なお高く、国指定重要文化財の茶の湯釜9点のうち8点を芦屋釜が占める。

 歴史的文化財の価値が埋もれていた同町。1989年、町はふるさと創生事業で何に取り組むかを住民に公募し、寄せられた意見から「芦屋釜の復興」を採用した。95年に総額6億円をかけて釜の里が完成。3千坪の日本庭園には情緒豊かな眺めが広がり、茶室や資料館、「復興工房」と名付けた鋳物師の作業場も構えた。

 町内には芦屋競艇場があり、かつては膨大な配当金で関係自治体を潤す“ドル箱”事業だった。だが平成になって間もない91年度を境に売り上げは減少の一途をたどる。地元にほかに大きな産業はない。町は釜の里整備に加えて鋳物業を再び地域産業に育てることを狙い、鋳物師養成の独自カリキュラムを考案。鋳物師を目指す人を公募、町の嘱託職員として雇用し、大阪から派遣してもらった専門職人に指導を仰いだ。

 その16年間の養成期間を終えた初めての鋳物師が八木(やつき)孝弘さん(47)。25歳ごろ運送会社を辞め、職人の道へ。2013年に独立した。作品は海外からの注文も多く、数年待ちだ。さらに21年度には、現在修業中の樋口陽介さん(39)が独立する計画。「技術だけ残ればいいということではない。後世に何をどう伝えていくか研究したい」と八木さん。樋口さんも「地域に文化が根付くための土台をつくる」と先を見据える。

 芦屋釜復興は、地方創生事業の柱の一つとして引き継がれている。「釜の里のハード整備以上に、伝統技術を守り継ぐシビック・プライド(住民の誇り)が醸成されたことが、ふるさと創生の最大の成果」。役場に入庁した01年から芦屋釜復興を担当している町学芸員の新郷英弘さん(43)は、自信を持って言い切る。

 釜の里は今年、開館25周年を迎える。自治体によってはこうしたハード施設は、選挙で是非が問われることもあるが、波多野茂丸町長(4期目)含め歴代町長いずれも「町のシンボル」として熱心に継承してきた。ただ入園者数は、ピーク時の2万2千人台から近年は1万5千人台に低迷。町内外からどう人を引きつけ、認知度を高めていくかが令和時代の課題だ。 (郷達也)

福岡県の天気予報

PR

福岡 アクセスランキング

PR

注目のテーマ