国民的俳優の痛快劇 神屋由紀子

西日本新聞 オピニオン面 神屋 由紀子

 韓国映画でこの人が出た作品ならまず外れがないと思う俳優はソン・ガンホさんである。名前を知らなくても、今月、米アカデミー賞作品賞を受けた「パラサイト 半地下の家族」に登場する極貧家族の父親役と聞けば、顔を思い浮かべる人も多いだろう。

 朝鮮半島分断下の悲恋を描いた映画「シュリ」(韓国公開1999年)で主人公の同僚である韓国の秘密情報部員に扮(ふん)していた。2000年代の韓流ブームの先駆けとなったこの映画あたりから日本でも注目され始めた感がある。

 彼に一度だけインタビューしたことがある。板門店を舞台に北朝鮮と韓国の兵士の友情を扱った「JSA」(2000年)のPRで福岡を訪れたのだ。外国映画の記者会見は通常、地方都市では行われないため、宣伝担当者に頼み込み、試写会場の楽屋で20分だけもらって取材した。

 うだつの上がらない銀行員が夜、覆面レスラーとなりリベンジを狙う痛快劇「反則王」(同)が気に入っていたので、体力勝負の役が好みなのかと聞いてみた。ソンさんは「僕は不細工だから体でも使わないとダメなんです」と苦笑し、「自分たちが生きてきた姿をリアルに描く作品が好きだ」とも語っていた。

 二枚目俳優ではない。でも優しさと哀愁を帯びた庶民を味わい深く演じる名優だ。「大統領の理髪師」(2004年)を見た山田洋次監督が「韓国にも渥美清みたいな役者がいるのか」と驚いたのも、そんなところからだろう。

 今や韓国の「国民的俳優」となった彼が出演した「パラサイト」は昨年のカンヌ国際映画祭最高賞に続き、米アカデミー賞で4冠を獲得した。

 低家賃の半地下住居に住む家族4人が貧困から抜け出そうと社長の豪邸に入り込む奇想天外な物語をブラックコメディーに仕立てた作品だ。

 物語の軸となる貧富の格差は韓国だけでなく世界共通の課題で、深刻な社会の分断をも引き起こす。最近、日本で公開された外国映画の「ジョーカー」や「家族を想(おも)うとき」も貧困が招く不条理を描き出した。表現者たちのそうしたメッセージが国を超えて共感を得る時代である。

 社会の分断により排他的な空気が増す米国で、その「パラサイト」が92年に及ぶアカデミー賞作品賞初の非英語作品となった意味は大きい。

 ソンさんは朴槿恵(パククネ)前政権が作成した政府に批判的な文化人の「ブラックリスト」に挙げられていた。政治が処方箋を示せない格差社会を鋭く突いた作品で称賛されたのも彼らしい痛快劇である。 (論説委員)

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