児相も取り組む「LSW」 親と暮らせない子、生い立ちを整理

西日本新聞 くらし面 国崎 万智

 児童養護施設などで暮らす子のために編み出された「ライフストーリーワーク(LSW)」は、子どもの権利擁護の世界的流れを受け、国内でも取り組みが広がっている。児童相談所や施設の職員らを対象にした研修会など、「支援者」の能力を高める場づくりが進む。

 LSWは、施設や里親など社会的養護の下で育つ子を対象に、1970年代に英国で始まった。出生後の歩みや家族関係を整理し、未来を描けるよう支える。英国は全ての社会的養護の子に対するLSW実施を法で定める。

 ワークは本人と支援者が1対1で行うことが多く、児相職員らが支援者になる。頻度や期間、内容はさまざまだが、後で読み返せるよう「ライフストーリーブック」を作成するのが一般的だ。幼い頃の自分や家族の写真を「ブック」に貼り、出来事と気持ちをつづる。大切な人や今の生活を振り返り、過去と現在を整理した後「望みと夢」「やってみたいこと」など未来に向けた考えを書き記す。

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 児童養護施設や里親宅で暮らす子は国内に約3万人。親と離れて暮らす理由を「自分が悪い子だったせい」と思い込み、自暴自棄になる例も多い。理由を理解し、受け入れることもLSWの大きな目的だ。

 熊本県中央児相(熊本市)もLSWに積極的に取り組む。小学生の頃に保護された高校生は「自分は親にとっていなくても構わない存在」と感じ、問題行動が絶えなかった。一時保護時、親は子の引き渡しを何度も求めたが、虐待の恐れが解消されず「面会は困難」と児相側が判断した。LSWで「養育方法は不適切だったが保護者なりの思いがあった」と伝えると、言動が落ち着いた。実施した児童心理司、小田友子さんは「子どもが頭の中のストーリーを修正し、自らを肯定できると自立に向けて踏み出せる」と語る。

 国の児童養護施設の運営指針は「生い立ちを知ることは、自己形成の視点から重要」と明記。里親などの養育指針でも、LSWを「子どもが自らを尊厳ある大切な存在と気づき、誇りを持って成長するために有効」と評価する。国の2015~16年調査によると、607の児童養護施設のうち、少なくとも131カ所でLSWを実践していた。

 普及に乗り出す自治体や地域連携の動きもある。三重県は18年度、全国に先駆けてLSW推進事業を始めた。児相職員や教員向けに研修や講座を開く。熊本県では児相や施設の職員らの研究会が9年前に発足し、実践報告や事例検討などで情報共有する。2月中旬には、LSWに取り組む九州の施設の報告会が初めて催された。

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 英国の行政機関は、施設の子が75歳になるまで生い立ちの記録を保管するよう規則で定める。一方、日本の多くの児相で保管期限は25歳まで。大人になってLSWをしたくても、情報を得られない課題がある。

 さらに、生みの親の情報や成長過程のエピソードの内容が、記録者によってばらつきがある。立命館大の徳永祥子客員准教授(児童福祉論)は「子どもが家族の状況を理解し、将来を主体的に決めるために最低限知らされるべき情報の基準を、国の規則などで示すべきだ」と訴える。 (国崎万智)

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