まるで別世界…福岡の名物洋食店の秘話 調理場見守る笑顔の遺影

西日本新聞 ふくおか都市圏版 小林 稔子

 福岡市中央区渡辺通1丁目の「サンセルコ」地下1階の飲食店街で、ひときわ目を引く洋食屋「ビック鯛(たい)はのぼる」。料理の写真や手書きのメニューが壁に貼り尽くされた外観、料理へのこだわり、そして店主のキャラクターが客を引き寄せる。ここは、店主の尾方登さん(69)、妻・博子さんの思い出が詰まった特別な場所だ。たい焼き店から出発した店は今月14日で10周年。切り盛りする尾方さんの様子を博子さんの遺影が優しく見守っている。

 最愛の博子さんは突然、2年前に56歳で亡くなった。葬儀で飾った博子さんの遺影とは別に、店内には亡くなる2カ月前に撮影された写真が飾られている。毎朝、尾方さんが自宅から持って来て、調理場に立て掛ける。「一番好きな写真です。いつも笑顔で怒らず、素晴らしい人でした」

 横浜市出身。高校卒業後、東京プリンスホテルで洋食のシェフとして働き始め、事務職だった博子さんと出会った。

 40歳を過ぎ、「違う仕事をしたい」とホテルを退社。博子さんの地元の福岡に移住した。タクシー運転手をしていたが交通事故に。1年4カ月間、入退院を繰り返し、退職した。

 近所の子どもにお菓子を配っていたとき、子どもから「たい焼きを食べたい」とリクエストがあった。数カ月かけて材料を調達し、研究を重ねてたい焼きを作った。これをきっかけに2010年、長さ30センチの巨大なたい焼きの店をサンセルコにオープンした。

 店名は「巨大なたい焼き」という意味と尾方さんの名前から。博子さんが命名した。その後、客の要望で提供を始めた洋食がメインとなり、たい焼きはやめた。

 メニューは国産豚ロースが5枚使われたショウガ焼き(税込みで600円)や糸島産の赤卵を五つ使ったオムライス(同700円)、ショウガ焼きを乗せた1週間煮込んだビーフカレー(同800円)など52種。

 硬さの選べるご飯やみそ汁はおかわり自由。人気のショウガ焼きを頼むと、「少し時間がかかりますよ」と言いつつ、2分で出てきた。尾方さんと客との笑い声が店外まで響く。

 別の仕事をしながら店を支えていた博子さん。共同作業で作っていた杏仁(あんにん)豆腐やハンバーグは「心の整理がついていない」といまだに作れない。「店を支えているのはお客様。今の僕を支えているのは彼女」。思い出にあふれた店で、尾方さんは今日も多くの客をもてなしている。

 午前10時~午後8時。定休日は第1土日。電話=092(713)8708。(小林稔子)

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