【つくる責任つかう責任】 松田美幸さん

西日本新聞 オピニオン面

◆「いのちが喜ぶ経済」を

 食品表示法の経過措置期間が終了し、4月から完全施行される。農水産物は産地表示、加工食品は原材料・添加物・栄養成分・原料原産地などの詳細な情報表示が義務づけられる。食品の安全性と、自主的かつ合理的に食品を選択する機会の確保が、この法律の役割だ。

 自分や家族の健康への影響については無頓着でいられないが、何が含まれているか、どんな工程で製造されているかなどを、どこまで把握しきれているだろうか。消費者は、これらの情報を正確に理解して、適切な選択ができる知識が問われることになる。

 供給側は、情報を表示さえすればいいという訳ではない。加工食品には多種の添加物が使用され、塩分や糖分の過剰摂取につながりやすい食品も存在する。健康への影響が懸念される食品が流通している背景には、安さや利便性を優先する消費者の存在を指摘する専門家もいる。

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 世界中で取り組む「持続可能な開発目標(SDGs)」の12番の目標には「つくる責任つかう責任」が掲げられている。これは、一人一人が消費行動に責任を持つ必要性と共に、社会を変えられる可能性も示唆している。

 2019年度、福岡県福津市内の中学校で、3年生全員が自分たちの地域の10年後に向けて課題解決策を市に提案する取り組みを行った。提示された課題からテーマを選び、地域の大人の話を聞いて自分たちで調べたり、住民との意見交換をしたりして、全員が提案書を作成した。

 市内に働く場が少ないベッドタウンの課題のひとつが、「若者がいきいきと働くまちづくり」だ。このテーマを選んだ生徒たちは、空き家活用を通じて地域の経済循環づくりに取り組んでいる移住者の話を聞いた。「いのちが喜ぶ新しい経済のカタチ」と題した話をしてくれた古橋範朗さんは、何をどこで誰から買うかという選択は、生産者や販売者への投票であり、応援になることを伝えてくれた。

 SDGsの浸透と共に「エシカル消費」という言葉が注目されている。倫理的な消費という意味で、人や社会、地球環境、地域を考慮して作られたモノを購入・消費する行動を指す。地元店で買い物をすれば、地元経済に貢献できるように、誰でも身近なことから始められるものだ。米国では、11月の第4土曜日は地元の小さい店で買い物をしようという運動が10年前に始まり、全米に広がっている。

 消費者と生産者の関係が分断され、価値交換の基準がお金と利便性に偏っている社会を変えようという動きは日本でも起こり始めている。

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 東京都国分寺市で多くの人に愛されるカフェを経営する影山知明さんは、地域通貨を介した自らの実践を踏まえ、「お金だけでない大事なものを大事にし、互いに支援し合う交換活動が、持続可能な経済を育てる」と説く。

 「共感資本社会を生きる」の著者で株式会社eumoを創業した新井和宏さんは、人と人とのつながりが価値になり、幸せで豊かになれるお金の創造を目指し、共感コミュニティー通貨と呼ぶ電子通貨の社会実験を始めた。

 お金のあり方や人との関わり方の変革により、新しい経済の姿を目指す挑戦は、巨大な金融資本主義の経済規模からは、微小かもしれない。だが、小さくても「いのちが喜ぶ経済」を追求する地域があってもいいのではないか。

 福津市の中学生が出した提案書には、「地元の店で買おう」とか「若者の起業を支援する策を」といったアイデアが盛り込まれていた。次世代が地域経済の当事者として育つためのまちづくりは、私たち現役の大人の責任だ。

 【略歴】1958年、津市生まれ。三重大教育学部卒、米イリノイ大経営学修士(MBA)。2017年12月から現職。福岡県男女共同参画センター「あすばる」の前センター長。内閣府男女共同参画会議議員、内閣府少子化克服戦略会議委員。

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