ひまわり列車(タイ) ブルトレ発見!ダム湖畔へ

西日本新聞 夕刊 中原 岳

 驚きのあまり、早朝から大声を出しそうになった。タイの首都バンコクの中央駅(フアランポーン駅)。JR西日本が譲渡した寝台車や座席車が連結された列車を偶然目撃したのだ。近年は、新型車両の登場で運行の機会が減っていると聞いていた。「何が何でも乗るしかない」。テツ(鉄道ファン)の血が騒いだ。当日の予定を急きょ変更し、駅の窓口で切符を購入。どこへ行くのか、列車の正体は何なのか、よく分からないまま乗り込んだ。

 謎の列車は家族連れや若者のグループを乗せ、午前7時10分に発車。私の席は残念ながら日本の客車ではなかった。隣席には20代の日本人男性が座っていた。日本の客車に乗りたくて、横浜市から訪れたという。

 男性によると、この列車は「ひまわり列車」と呼ばれているという。ヒマワリが咲く11月から1月に土日限定で運行されるのがその理由だ。男性は前日も同じ列車に乗ったといい、目的地はタイ中部のひなびた観光地だと教えてくれた。JR九州が運行する「ゆふいんの森」や「SL人吉」のような観光列車なのか。そう思うと、妙に親近感が湧いた。

 男性と2人で、日本の寝台車や座席車を探検してみた。車体の色はかつての青から紫に塗り替えられ、ベッドや座席はカバーが交換されていた。それでも、寝台特急やスキー列車として日本各地を結んでいた頃の面影を十分に残していた。「自動ドア」「寝台使用中は禁煙」といった日本語表記もあり、思わず「懐かしい!」と声を上げてしまった。

    ◇   ◇

 バンコクを出て約3時間40分。車窓にパーサック・チョンラシットというダムが見えてきた。列車は、ダム湖をまたぐ橋の上で30分ほど停車した。乗客たちは車外に出て、どこまでも広がる湖や、弧を描く列車を背景に記念撮影していた。とは言え、ホームはなく、保線用の通路や線路上を歩いて移動するしかない。このいいかげんさが、ある意味でタイらしい。

 列車に20分ほど乗り、折り返し地点のコックサルーン駅に到着。小さな駅舎しかないが、ホームには特産品の露店がずらり。乗客たちは元気な売り文句に誘われるように弁当や野菜などの買い物を楽しんでいた。

 列車には17両もの客車が連結されていた。1両の乗客が60人とすれば、都会から千人以上がやって来る計算になる。地方への経済効果は小さくはないだろう。

    ◇   ◇

 列車は来た路線を30分ほど戻り、ダムと同名の駅に到着した。駅周辺には水族館や博物館、公園などが点在しており、ここで3時間の観光タイム。湖畔にはヒマワリのオブジェがいくつか置かれ、確かにヒマワリを売りにしているようだったが、肝心の花はどこにも見当たらない。今年は既にシーズンが終わってしまったのだろうか。残念至極だ。

 SL型の乗り物で、ダムの堤防や湖畔に鎮座する大仏を巡る1時間ほどのツアーに参加した。日差しは強かったが、湖上を吹き抜ける風は涼しく気持ちよかった。現地の少年少女がガイドを務め、マイクを手に歌も披露。乗客は拍手で応えた。タイ語は全く分からなかったが、和気あいあいとした雰囲気に癒やされた。

 帰りの列車で、再び日本の寝台車へ赴いた。乗客が降りて空席になったベッドに寝転がり、ひまわり列車の旅を振り返った。この車両に乗るのが目的だったのに、気づけばタイの田舎を満喫していた。次回、タイを訪れたら、ヒマワリが満開の時季にまた乗ろう。そう心に誓い、名残惜しく列車を降りた。(中原岳)

メモ

 「ひまわり列車」の切符は、バンコクの中央駅(フアランポーン駅)窓口で購入でき、利用した時の値段は冷房付きの2等車で往復490バーツ(約1700円)だった。旅行会社のツアーに参加して乗ることも可能。バンコク発の観光列車には、太平洋戦争の時に造られた旧泰緬鉄道へ向かう便もある。この列車にも、日本から譲渡された寝台車や座席車が連結される場合がある。

かまぼこ形の大屋根 バンコク中央駅

 タイ国鉄のバンコク中央駅は、タイ北部の古都チェンマイや、日本人町の跡で知られるアユタヤなど各地へ向かう列車が発着する一大ターミナルだ。フアランポーン駅、クルンテープ駅とも呼ばれる。

 かまぼこ形の大屋根を持った駅舎が特徴で、構内にはコンビニや薬局、フードコートなどがそろう。待合室のベンチの一部は僧侶専用のため、利用には注意が必要。トイレにはシャワールームが併設され、10バーツ(約35円)で利用できる。ただし、水しか出ない。

 来年にも、新たな中央駅となるバンスー駅が約7キロ北に完成予定。主要路線の発着は新駅に移る。

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