聞き書き「一歩も退かんど」(93)二つの国賠訴訟明暗 志布志事件冤罪被害者 川畑幸夫さん

西日本新聞 オピニオン面 鶴丸 哲雄

 この連載もあと3回で終わりです。最後は志布志事件のその後についてお話ししますね。

 2015年5月15日。志布志事件の裁判闘争は、天王山を迎えていました。鹿児島地裁で午前と午後に分かれて二つの判決があるのです。私は仲間といつもの貸し切りバスで、鹿児島へと向かいました。

 最初は志布志事件無罪国家賠償訴訟の判決。起訴された元被告11人と、途中で死亡した元被告2人の遺族が国と県に総額2億8600万円の賠償を求めた裁判。結果はこちらのほぼ完勝でした。裁判長は国と県に元被告1人あたり460万円、総額5980万円の賠償を命じました。

 その判決理由がこうです。どう喝や誘導で虚偽の自白を強要した捜査を違法と断定。さらには捜査を指揮した志布志署の当時のK署長と鹿児島県警のI警部に「事件の筋読みを誤り、過失があった」と認定したのです。H元警部補が私への踏み字で有罪が確定し退職金も失ったのに、「暴走列車」とまで呼ばれた捜査を指揮した2人は、何の罰も受けず退職金を丸々受け取っていましたね。私も留飲が下がりました。

 判決は鹿児島地検の責任にも踏み込みました。元被告全員が否認に転じた後も地検が漫然と起訴・勾留を続け、公判を継続したことを違法と認定。「検察官に過失があった」と結論付けたのです。県警と地検が結託して事件をつくり上げた構図が、これで浮き彫りになりました。

 さあ、午後はたたき割り国賠訴訟の判決です。起訴はされなかったものの「たたき割り」と呼ばれる過酷な取り調べを受けた7人が県に総額2310万円の損害賠償を求めた訴訟です。20万円を受け取って消防団の団員に配った、と涙ながらにうその自白をさせられた浜野博さんを覚えていますか。その浜野さんが原告団長を務めています。

 私たちは当然、この7人も勝つと信じていました。ところが判決は3人への賠償を認めましたが、浜野さんら4人の請求は棄却しました。皆同じように苦しんできたのに、どうして一方は認め、一方は認めないのか。不当判決です。

 2訴訟の原告そろっての記者会見は明暗がくっきり分かれました。浜野さんは涙を拭い「やられた人間でないとあの悔しさは分からない」と声を絞り出しました。闘いはまだ続きます。 (聞き手 鶴丸哲雄)

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